†Ⅰ†

 真っ暗な背景に薄っすら紫で描かれた逆さ十字架と六芒星。フワフワとそこに浮く黒い物体。


『ハローハロー:) 愛しき視聴者ピースの皆さん。ワタクシ、煽りと晒しが死ぬほどだーいすきな“K”デス』


 とある配信動画。

 これはダークウェブ経由、または一部しか知らないSNSや動画投稿サイト・アプリ等。表よりも裏で“アンチキャラ”として活動している【チェスのKING】をモチーフになった黒く紫色を施した一つ目のアバター。体はないが白い手袋をした手がチラッと出てくる。


『やれやれ、最近“正義の味方さん”が不祥事で叩かれてざわついてる中、ちょうどおやつの時間にも事件があったらしいですよ。詳しく知らないけど“元警察”だったとか。いやー不幸すぎる。狙われてるんですかねぇー。時限爆弾に釘を仕込んで殺傷能力のを上げたとか。ひゃー恐ろしい。もしや、また不祥事。または、現場の誰かを狙った無差別なのか。気になる所。皆さんはどう思います?』


 男か女かわからない機械的な声でケラケラ。ついでにニヤリと目を細め笑う。



ナナシさん

『Kさん、緊急配信配信待ってました!!』

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晒し垢

『情報はやっ……ニュースでもやってないよな。それマジなの? だったらヤバくない?』

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死亡願書

『Kさん、もっと聞かせてー。警察信用出来ないから滅んでいいと思う』



 リスナーから来るコメントに難しい表情をしながらアバターは言う。


『うーん、ワタクシの所にある情報ハ微弱でして……言えることは【警察と住人が原因不明の爆発で負傷】ってことぐらいデス。急に仕入れた情報なので緊急配信になりましたが分かりましたらシッカリお伝えします。短くてゴメンナサイ。近々、ピース達が好きな企画立ててるから待ってて下さい。デハ、また!! バイバイ』


 真っ黒な画面から黒いモヤに包まれ、アバターが消える。それを残念そうに待ち合わせ場所で純夜が寂しそうに見つめていた。


「推しのKさんの緊急配信終わっちゃった。僕の支えなのに……たくさん晒して叩いて……とても共感できるのに。それにしてもお兄さん来ない。時間過ぎてるのに」


 晴れていた空は雲に覆われ、シトシトと雨が降る。濡れないように店の前でしばらく雨宿りしていると「待たせて悪かった。少し厄介事が起きてな」と雨に濡れながら和也は純夜の隣へ。服装はあのまま。雨で血は落ちるも赤みは消えない。


「え、あの……それって……」


「気にするな。それよりなにか観て笑ってたようだが何を観てたんだ?」


 和也は静かに純夜に話しかける。濡れた髪をかき上げ、スラックスにインしていたワイシャツを外に出しては端を雑巾のように絞る。


「えっと……推してる人が居てその人の配信を観てたんです。今、終わっちゃったんですけど。アハハ……」


「推し、か。ハッカーやアンチ行為をしているお前を見る限りでは無さそうだな。例えば――裏の闇を抱えている奴とか」


「えっ」


 純夜の図星の表情に和也は咳払いし、少し恥ずかしそうに身振り手振り含め言う。


「ハローハロー、皆さん。今日はストーカー男を逮捕したのに住所を教えてしまったクズな警察の話をしましょう。

 ストーカー被害にあった女性には警察に相談。警察はストーカーをしていた男性に近寄ることを禁止。それでも改善せず女性は引っ越すも警察は男に住所を教えてしまった。その後女性は殺害――はい、クズー。その警察クズですよね。その人のせいで女性死んじゃったんですよ。じゃあ、晒して叩きましょう。二度と戻ってこれないように……」


 聞き覚えある独特な挨拶と身振り手振りに純夜はカッと目を見開き言葉を失う。


「え……うぇ!? あ、あの……お兄さんってもしかして――」


 言葉を言おうにも詰まらせる純夜を黙らせるように和也は気だるそうに返す。


「俺は市民を守るために警察になったんじゃねぇよ。正義の味方のフリしたクズに【社会的な死】または【それ相当な罰】を与えるためになった。何か文句あるか? あるなら言え。無かったら黙ってろ」


 突然の凶変に純夜は黙るや小さな声で「誰かに雇われてるんですか?」の言葉に和也は「それは秘密だ」と怪しく嗤った。

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