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死亡の手がかりがないか血まみれのパソコンや遺体の私物を漁る。貴田に「スマホとパソコン解析してくれ」と指示され、汚れてない服を見つけテーブルクロスの代わりに敷く。その上に持参したノートパソコンを置き、ケーブルに繋げ解析するとスマホのデータまるごと消えていた。
後ろを開け、SDカードを引き抜こうとするも無し。証拠隠滅か、さては殺した犯人が抜いたか。
「他殺……」
「ん? なんか言ったか」
「いえ」
「なんだよ、隠すな」
「誰か部屋に入ったとか」
「あー監視カメラ観たが今日映っていたのは配達員だけだ」
「配達員? 引き金は郵便物……か。にしては、見当たらない。何故?」
和也は疑問を持ちつつノートパソコンを開く。これは普通に使えるようで画面が点き、デスクトップにあるフォルダーを一つ一つ確認。血に関しては興奮するのかリストカットやモザイク無しの写真が百枚近くある。
検索画面を開くも【血】に関することばかりで事件に関与するものは無し。SNSでの人間関係か、と軽い考えで調べてみるも見られたくないものでもあるのか消されていた。
「チッやりづらい」
メールの履歴も無し。購入品が分かれば進展するかと思ったが考えが甘かった。電源を消し、最後にノートパソコンの裏を見ると隠すように貼られたメモ帳。“nslfkclr dmp rpygrmpq”デタラメな英語に見え るが和也は見慣れたようにアルファベットをガン見。ブツブツ独り言を言っては単語を口ずさむ。
――punishment for traitors――
“裏切り者には罰を”
ハッと目を丸くし「貴田警部」と名前を呼んだ瞬間――外から爆発音と悲鳴。二人は慌てて外に出るや白い煙が空に上がるのが見え、急いで階段を駆け下りる。
二人の視界に入ったのは住人と警察官数名が爆発の影響で血を流し倒れていた。その中には新人の田辺がおり「大丈夫か!!」と駆け寄ると腹部には釘や爆破物の破片が深々と刺さり、口から血を流す。何かを伝えようとパクパクと口を開くが――聞こえない。だが、和也は動く口から目を逸らさず読唇術で解読していく。
「此方、貴田。悪いが救急車と応援を頼む。襲撃かは分からないが負傷者多数。急いでくれ」
隣で貴田が素早く応援と救急車を要請。倒れている人達に駆け寄り一人一人怪我の状態を確認。かすり傷、切り傷と軽傷者がいる中、一番酷かったのはやはり新人の田辺だった。
無理に動かさない方がいい、と判断した和也は貴田と共に周囲の安全を確かめるため離れたが、ジワリジワリと血溜まりが広がる光景に和也はジャケットを脱ぎ圧迫止血。今にも消えそうな彼女の意識に「しっかりしろ!! 辛いと思うが目を閉じるな!! 死ぬぞ」と必死に声をかけた。
数分後――。
応援と救急車が到着。怪我人は運ばれ、貴田は現場の指揮を取るため残り、和也は田辺の血に染まりながらも救急隊と救急車の中へ。田辺は命に別状はなかったが少し遅ければ大量出血で死亡――。その手前まで迫っていたらしく「彼女は絶対助けますから」と田辺を乗せた救急車はその場を後にした。
救急車が見えなくなるまで静かに見つめているとばたつく現場から「白石」と貴田に呼ばれ振り向く。彼の真っ白なワイシャツが真っ赤に染まっているのを見て驚いた貴田は「大丈夫か? 無理するな」と落ち着かせるためか大きな手が肩に乗る。
「フラッシュバックする前に今日は退け。少し休暇やるから気分転換してこい。自分を責めるなよ」
トントンッと優しく叩かれ、棘があるようで突き放すのではなく、過去の和也の経験を理解しているからこその優しい言葉。
「新人が俺に伝えたことを言ってから消えます。少し時間をください」
「いいぞ」
和也は軽く過呼吸を起こしそうになるも深呼吸。ゆっくり口を開く。
「郵便物を持った男から亡くなった男性宛に荷物が届いた。それを受け取り少ししたら爆発。多分、スマホやパソコンにデータがなかったのはウイルスにより破壊された可能性アリ。時間はかかりますが復元可能かやってはみますが……期待はできない。あとは、新人の回復次第」
毒を吐く余裕もなく、敬語で苦しそうに胸を押さえながら和也は貴田に伝える。
「遠隔爆弾……リモコンか?」
「時限式かと」
「何故だ?」
「電波とかありますし……時限式なら配達員のフリして渡せば確実に殺せる」
「なるほどな。とりあえずお前は退け。何かあったらデータを送る」
貴田の言葉に和也は頭を下げ、歩き出すとスマホが震える。
――585858――
“www”
朝来た不審な数字暗号。
和也はその正体を知っていた。
「糞が」
そう乱暴に暴言を吐き捨てると聞こえているか、また震える。
――26569036 503056――
“fu*k you”
その言葉に――26569036 503056――と同じ数字で返した。
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