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「戻りました」
署に戻るやデスクに向かうと書類の山。未解決事件、途中経過、解決済みとファイリングが仕事ではないが科を移動して地位が下のためか雑務が多い。
「白石、データ入力もよろしく。あと、読み返して変な点があったら担当に聞きに行ってくれ」
慌てた様子で上司が仕度を始め「悪い、外に出てくる」と事件か。数人連れてオフィスから離れる。
和也は無言でキーボードを叩き、時には手を止めファイリングしていると不意を付くように頭痛と目眩。それと――。
「んっ……こんな時に……」
引き出しから処方され常備していた薬を口へ放り込む。給湯室に足を運び、紙コップに水を注ぎ一服。症状が治まるのを待ち、オフィスに戻るや緊張感漂う空気に耳を傾ける。
「自殺だって。世の中、不吉になったものだね」
コソコソと周囲から声が聞こえ、デスクに戻るや盗み聞きしようとファイルをしまうついでに棚へ近づく。
「あ、白石さん。聞きました? 都内の男性が自作した爆弾で自殺したって話。今、一課が動いてて……」
カタッとファイルを入れ「俺は担当じゃないので」と話をかわすが「その人、元警察だったとか」と噂話に興味が湧く。席に戻るや今度はスマホが震え、上司から電話。
「はい、白石です」
追加の仕事か、と少し不機嫌ながらもハキハキ返事をするや上司は気難しそうな声で『留守頼んだのに悪いが現場に来てくれるか? 元サイバー課のお前しか出来ない事があってな』と催促。
「俺ではなく普通にサイバー課に頼んだ方がいいかと……」
『一課に推薦したのはお前が誰よりも優れてるからだ。勿論、洞察力も判断力も褒めどころだが……世の中ネット犯罪も主流だろ? なら、そういった犯罪のエキスパートに頼みたいってことだ』
上司の言葉と信頼ある声に和也は「分かりました」と必要なものを持ち静かに席を立った。
*
住所を聞いて訪れた先はアパート。周囲には住人と見られる人々が不安げな表情をして立入禁止のテープの前に群がる。何があったのか、どういう状況なのか、見張りしている警官にクドく聞く光景に『少し面倒そうだな』と和也は視線を逸らすも最近入ってきた新人女性警察の
「いや、そんなにかしこまらなくていい。俺はそこまで偉くない」
「そんなことないです!! だって、白石さん――」
「あーはいはい。キミ、住民から情報聞いておいてくれる。あと、大家さんや不動産から入居人把握できる物とか……」
話が長引きそうだな、と仕事を振りまくやテープを潜ると見慣れたビジネスシューズ。「悪いな、呼んで」と上司の
「おいおい、拗ねるな。五十の俺からしたら三十前半のお前はまだ若いんだ。それに未解決の件も任せてるだろ?」
「一課じゃなくても出来ますよね? まぁ、皆さんより経験は劣ってるのは確かなんで、これ以上は口出ししませんが」
「警部の俺に恐れ無しで口出しできるお前の度胸は認めるが指示にも従え。分かったな」
生意気な部下だな、と思われたか。鋭く刺す視線に和也は「了解」と言葉を返すや「これと部屋にあるパソコンを頼む」と自殺した人のスマホを差し出され、手袋を填め受け取る。
「死因は?」
「部屋見りゃ分かる。グロ耐性あるか、お前」
「まぁまぁ。って、そんなこと言ったら警察無理では?」
「ならいい。新人には見せられない。俺とお前だけでやる。他の部下はダウンしててな」
そんなに酷い現場なのか、と上司の背を追い掛け三階に上り一番端の部屋『三○一号室』。ドアノブを捻り開けると茶色と黒と赤が入り混じった部屋。
血、血、血――。
そこら中、血だらけだ。
壁も床も家具にも……。
それに血の匂いと腐敗臭。
「間取りは1LDKの狭い部屋。何が起きたか分からんが……異常だよな」
茶色く乾いた床を土足で踏み込む貴田。それに和也が続くとザラザラした感触に「いつの血なんですか、これ」と気分を吹き掛けるや「本題はこっちだ、早く来い」と急かされる。
赤い手形がついたドアを開ければ生々しい真っ赤な部屋。【赤い部屋は好きですか?】と幼い頃の怖い話を思い出す。
「……自殺と聞いてたんですが」
和也は目に入った光景に苦笑。貴田が「あぁ、隠すためにな。敬語使わなくていい。毒舌で頼む。その方が気晴らしになる」と貴田は狭い小部屋で釘だらけで死んでいる遺体に目を向け、それに釣られるように和也も見るや舌打ち。小言を漏らす。
「クソな殺しだな」
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