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 仕事に戻ろうとついてくるのを辞めない純夜。時々振り返り様子を伺うとジャケットを掴んでいるのか後ろに引かれる感覚。

 ――そんなに帰りたくないのか――と悟った和也は「スマホ貸してくれるか?」と人気のない裏路地に入り、屈みながら手を差し出す。


「そんなに嫌なら


 ニコッと表は笑顔。裏は嗤いながら。


「消すってどうやって?」


「それは秘密。助けて欲しけりゃ差し出せ」


 小さな手には大きすぎるスマホ。それを優しく受け取り、和也は自分のスマホとケーブルで繋げデータを移す。それはだった数秒で終わった。


「ほらよ」


「えっもういいの?」


 静かに頷き、素早く移したデータを見るや日常的に親からの暴言や行動規制、新高校生なのか連絡アプリの中には学費のことで揉める文も多数。何より『お金ないから昼はどうにかしなさい』と面倒すら見ない文に「クズだな、ホント」と画面を消す。


「お兄さん、仕事終わるまでもう少し掛かる。いい子にしてたら待ち合わせの場所で夕食奢って寝る場所も提供してやる。だから、少しばかり我慢できるか? ハッキングで金盗んだこと黙っててやるから」


「え……あ、それは、その……」


 先程探りを入れ、知ってしまったパッキングの系列。和也の不意打ちの言葉に背筋が伸び、顔が引きつり固まる純夜。さすがに言い過ぎたか、と和也は話を逸らす。


「お前、親嫌いか?」


「うん……」


「消えてほしいか?」


「うん。だって夜遊してるし……暴力振るわされるし……知らないのに優しいお兄さんみたいな人と


 元気のない今にも消えそうな言葉。

 その言葉の中で“契約”が完了したのも知らず……。


「そうか。お前、人が罪隠して暴かれて叩かれる姿見るの好きか? なら、後で良いこと教えてやる。時間が来るまで待っててくれ」


 スッと和也は一万円札を長財布から抜き取り、純夜の前に差し出す。


「ご飯もまともに食べられてないんだろ? 人の金盗むの辞めてそれで少しは贅沢してこい。次に事を起こしたら遠慮なしに逮捕する。約束な」


 受け取りながら純夜は和也の言葉に目を丸くする。札に触れそうな一歩手前で手が止まり、やっと和也の職が分かったのか戸惑い震えた声でながら言う。


「逮捕って……お、お兄さん、け――」


「それ以上言ったら首斬るぞ」


 口止めだ、と職にしてはらしくない言葉で黙らせるや「俺のことバラしたらお前も終わりだからな」と金を押し付け、歩み出す。

 追いかけてくるかと思ったが怖気付いたか。追い掛けてくる気配はない。和也は少し苛立ちながらも落ち着かせるために深呼吸。スマホを点け、ある人物に電話を掛ける。


『はい、此方【好事屋】カフェでございます。ん、その声は――なんだか苦しそうだね。善と悪が喧嘩してるみたいだ。何かあったの? 薬飲んでる? 錠剤が駄目なら緊急用に注射器渡してるでしょ』


 電話相手は男のようで女性の色気を感じる親しみある声と分かりきった言葉に和也は「高島たかしま 恭一きょういちいるか?」と話を逸らす。


「恭ちゃんか……。恭ちゃんは裏カジノの兄弟のところに言ってるよ。仕事が入ったから計画立てに組んだーって。伝言なら預かるけど」


 不在だと知り、何も言わずブチッと雑に電話を切る。スマホを取り出し検索部分に彼しか知らないアドレスを手打ちで打ち込み、出てきた連絡ツールに和也は打ち込む。


『854412642513』


 すると――


『92852112』


 ついでに『へたちる』と打ち込めば『うき』と返事。

 これは和也と一部の人にしか通じない【数字暗号】と【ひらがな、ローマ字、アルファベットを2戻す暗号】。どちらも表の世界では使わない裏の世界の言葉だ。

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