3

 キーボードを叩きながら解析して数時間。気付けば昼を過ぎ中途半端な時間。セキュリティが守ったと言っていたが微弱だが無効にされた形跡があった。ただ消してそうで消えてない。本物のハッカーにしては何か違う気配に和也は自身のノートパソコンとスマホ、後輩のパソコンを器用に弄る。

 その後――導き出した答えは【とあるネットカフェ】。頭が良いと言えばいいのか、よく使われる手口だな、と呆れ半分。


「犯人は分からないが場所の解析はできた。見てくる」


 昼ついでに行って来るか、と和也は席を立つと「すみません。ありがとうございます」と後輩が頭を下げる。「少しだけセキュリティを強化しておいた。後は此方で引き受ける。何かあったら連絡くれ」と冷めたコーヒー片手に廊下へ。


「サイバー課に侵入するとは良い度胸だが……残し過ぎなんだよな。ったく、誰だよ。荒らしたの馬鹿じゃねーの」


 飲み干しゴミ箱へカップを捨て、時々立ちどまりスマホを弄りながら裏口から外へ。徒歩で近くの駅へ向かい、行きつけでもない初めて入るシックで落ち着いた店内のカフェ。

 昼過ぎなこともあり人は少ない。誰も並んでいないレジでブラックコーヒーとトーストを注文。少し待ち、丁寧にトレーに置かれ提供された注文品を受け取る。「どうも」と軽く礼を言い、カウンターで猛勉強している学生の隣に腰掛け、小声で独り言のように「俺から逃げられると思ったか、荒らしたのお前だろ」と脅迫しつつ静かにコーヒーを飲む。


「え? あの……」


 突然の恐怖与える言葉に陰気そうで痩せ型な男子高校生の顔が真っ青。だが「ハッキングとは良い度胸だ」の言葉にザッと教科書と筆箱を片付け逃げる支度に和也は「バレバレなんだよ。○○公立高校に通ってるだろ、お前」と揉め事と悟られない程度に腕を掴む。


「な、なんで……わか――」


「黙れ。解析してついでにお前のスマホをハックしたんだよ。お前、少し鍛えれば使えそうだから見逃してやるが昨日はネットカフェにしたいらしいな。親と不仲か? 詳しくは聞かないが十八時に池袋駅近くにあるコンカフェに来い」


 スッと教科書の下に和也はメモを差し込む。


「え、あ……は、話が分からないんですけど」


 しらばっくれる高校生に和也は軽く睨み、小声で言う。


「SNSでの誹謗中傷、一部に対するアンチ、ハッキング――後は自殺に追い込むほどの精神攻撃」


 スマホを弄りながら資料作成ツールというアプリに纏めた項目を一つ一つ読み上げ様子を伺う。高校生の今にも倒れそうな顔色の悪さと変な汗に「フッ」と思わず笑み。


「これ以上言われたくなかったら指定の場所にこい。『好事家カフェ』という場所がある。予約制で会員制だからお前一人じゃ入れない。その店の前で待ってればいい。来なかったら――」


 静かに和也は手で首を斬る仕草。逃げないように更に仕掛ける。


「なぁ? 大海おおみ 純夜じゅんや


 初対面で名前を当てられ、純夜はガタッと席を立つ。これ以上言わないで、と訴える怯えた顔に和也は満足げにコーヒーを一口。


「お兄さん……誰……なんで全部知ってるの」


「ん? それは――」


 口を開け言うふりしてわざと閉ざす。和也は純夜を見つめ、純夜は和也を見つめる。とても静かな睨み合い。睨んでいれば“学校を口実に逃げるだろう”と思っていたが純夜は“学校”の言葉すら吐かなかった。


「なるほどな、不登校か。学校で嫌なことでもあったか?」


 わざと話を逸し、トーストにバターを塗りかじる。十字の切れ目が入ったサクサク、カリカリに焼き上がったトースト。少し冷めてしまったがほんのり甘くバターの深みで旨さが増す。「ウマッ」と小言を漏らしながら食べていると純夜は席に座り直し震えた声で言う。


「ボク、養子で……引き取られたんだけどイジメられて怖くて学校行けなくて。だから――」


 助けてほしいのか、本来は親に話すべきことを勇気を振り絞って和也に言っては涙を浮かべながら目を擦る。

【現実の自分は何も言えないからネットでアンチしてる。顔も見えないし、炎上するけど気持ちが良くなる】と泣きそうで嬉しそうな顔をする純夜だが深く話を聞けば――「クズ親か」と聞こえぬよう和也は呟き舌打ち。


「だからってネットでやるのはどうだと思うが……まぁいい。少し食べ終わるまで待ってろ」


 ゆっくり昼食を食べるはずが味わう暇すらなく押し込むように食べ、コーヒーだけはゆっくり飲み干す。「片付けてくる」と席を立つも既に懐いたかトコトコと小走りでついてくる純夜に「お前、俺が根っからの悪だったら誘拐されて死んでるぞ」と脅し言葉を掛けるも「なんか……悪い人じゃないような気がする」と職業柄のオーラが出ているか「調子狂うな」と吐きつつ店を出た。

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