2
秋風が少し冷え、太陽が少し顔を出す頃。
フォーマルスーツに身を包み、出勤支度をしながら
「ざまぁ」
真っ暗な画面に映る彼の表情は嗤っており、それに気付きたのか右手で隠すや左手で顔を覆う。「ククッ」と嗤いを堪え、「ハハッ」と漏れた声は何処か邪悪で――。
ブーッブーッと家を出る時間だと知らせるスマホのアラームを素早く消し「いってきます」と一人にしては広すぎる4LDKの部屋に低く大人びた声が響く。
*
「記者も大変だな。朝から押し掛け取材なんて……いや、暇なのか」
自転車で勤め先である署に向かうや門の前に群がるは記者。【不祥事】=【エサ】。なんて考え方は良くないが和也には記者は【エサに群がるハエ】のような目で見ていた。
勤め先は不祥事に対して関与してないが〔ネタがないか〕探りのつもりだろう。または圧か。たまたま表門から入ろうとした職員に聞き込みしてはしつこく追いかける姿に「暇なんだな……見てて呆れる」と毒を吐く。
記者、報道陣は――
【ネタが得られれば嘘・本当構わず情報を流す】。
これは一部かもしれないがネタのために事を起こす。その他諸々を含めたら尚更――無責任な行動をする彼等が和也は嫌いなのだ。
「裏から入るか。関わりたくもない」
見苦しさに表から入るのを止め、迂回して裏から入ると同僚と部下も同じ考えだったらしく「白石さん、おはようございます。朝から嫌ですね……」と呼ぶ声に足が地につく。
「そうだな。糞な警察に恥を知れと言いたいが……俺も警察だからな。職が汚れる」
カチッとロックを掛け、鍵を抜くや「どうやって追い払います?」と無駄な言葉にため息。「ほっとけ。俺は奴らの相手をするより未解決の事件や進歩している事件に目を向けろ。そのうち諦めるだろ」と震えるスマホをスラックスのポケットから取り出す。
歩きながら画面を点けると『15618513』とメッセージ。名前はないが和也は相手を知っているようでフッと鼻で嗤っては同じく『15618531』と返す。
「朝からこれか……疲れるな」
*
朝礼を終え、オフィスで書類整理。元々和也はサイバー課だったがコツコツ努力し一課へ。だが稀に「和也さん居ますか……」とサイバー課に呼ばれることがある。
「ん?」
コーヒーショップで買ったカップを手に持ち、軽くフチに唇を添えながら振り向くと見慣れた顔。俺の引き継ぎをした年下の後輩。
「ちょっといいですか?」
「まぁ」
重い腰を上げ、コーヒーを飲みながら廊下に行くと「最近、ブラックハッカーが警察の不祥事荒らしをしているのか悪さしてるみたいでして上手なのか、その……」と自信なさげな声に後輩のオフィスに向かう。
【サイバー課】と区切られた部署に頭を下げながら入るや後輩が管理しているパソコンを見ると漁られた形跡とデータが一部破損。抜かれてはないが盗み損ねたのだろう。荒らされていた。
「こっちの防衛システムがギリ防いだみたいだ。解読しようとしてセキュリティが防衛した痕跡がある。そう言えばニュースでやってたやつ情報流だよな。似たような輩がやったのかもな」
「和也さん、あのもし可能でしたら侵入者解析とか出来ますか? 今の私では突き止められず。それに和也さんは珍しくハッカーに関する捜査や裏の繋がりがあるとお聞きしました。頼るのもお恥ずかしいのですが……」
後輩の言葉に『俺が関連を持ったバッカーは大体滅ぼした。だとしたら新手か』と脳内で考えつつコーヒーを飲む手を止め、「今回だけだぞ」と和也はマウスを握る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます