第72話 俺はさすがに、カチンときてしまった。


 家の前にいたのは、ひかるんのお母さんだった。

 俺になにか用だろうか。

 ひかるん母は、俺に血相を変えて、突っかかってくる。


「あなたねえ……! ちょっと……!」

「え……? な、なんですか……?」

「あなたには常識というものがないの……?」

「え……?」


 なにを言っているのかわからない。

 いきなり俺は、むなぐらをつかまれる。


「女子高生を異世界に連れていって一緒に寝泊まりするだなんて、あなたは大人として、どうなのかしら……!? ほんとうに、ひかるを傷物にして、あの子もあの子だわ……汚らわしい」

「ちょ、ちょっと待ってください。俺は別にひかるさんにはなにも……してないですよ」

「どうだか。あの子はあなたに色目を使っていたわ。本当に汚らわしい。さすが、汚れた獣の血だわ」

「…………ちょっと……、言いすぎじゃないですか」


 俺はさすがに、カチンときてしまった。

 まあたしかに、ひかるんと異世界に旅行にいったみたいになったのは、あまりよくないのかもしれない。

 ひかるんはまだ高校生だ。

 そんなひかるんと数日間一緒に寝泊まりしていたのは、問題かもしれない。

 だが、あのときは配信もあったし、俺はなにも手出ししてはいない。

 それに、あれはひかるんの亜人症を解決するためでもあった。

 そしてなにより許せないのは、この母親の言い方だ。


 ひかるんをまるで阿婆擦れかのように、汚らわしいだのなんだの。

 そんなの、まともな母親の言うことじゃない。

 さすがにこれには俺も、腹が立ってしまう。


「それに、余計なことをしてくれたものね」

「余計なこと……?」

「あの子の寿命のことよ! 放っておけば、もうすぐで死んでくれたっていうのに。まだまだあの汚らわしい獣が、うちの家族としてのさばるなんて、虫唾が走るわ……! さっさと死んでくれればいいのに。あなたのせいで、私はまだ苦しまなきゃならない……!」

「はぁ……? 何を言って……!? あんたねぇ……! そんなの娘さんがきいたら、どう思うか……!」


 俺がそう言ったときだった。

 ドサ、と物音が、階段のほうからする。

 ふと振り返ってみてみると、そこには立ち尽くすひかるんがいた。

 ひかるんはなにやらコンビニの袋を持っていて、それを地面に落としてしまっていた。

 おそらく、俺に会いに来てくれたのだろうけど……タイミングが悪い……。


「ひかるん……」

「なんで……お母さん、ここに……」


 ひかるんはさっきの言葉をきいてしまったのだろうか。

 うっすらと涙を浮かべると、逃げるようにしてその場を去ってしまった。

 俺はひかるんの母に向き直る。


「あんた……! 最低の母親ですね……!」

「ふん、なんでもいいわ。あんな子……。あなたのことは、警察に突き出しますからね。裁判も起こします。覚悟の準備をしておくことね……!」

「はぁ……? なにを言って……」

「言いたいことはそれだけよ。じゃあね」


 それだけ言うと、ひかるんの母は去ってしまった。

 まったく、なんだったんだあの人は……。

 本当に、最低の人物だ。

 まったく、わけがわからない。

 俺は、急いでひかるんを追いかけることにした。


 ひかるん、傷ついてないといいけど……。


 その後河原で泣いていたひかるんを保護し、いっしょに夕飯を食べた。

 俺は深く決意した。

 この子は、絶対に俺が守るって。

 あの母親から、なんとしても遠ざける……!

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