第35話 そろそろ敬語やめにしない?


 サリナさんから、こんなLINEが届いていた。


【そろそろ一緒にコラボしませんか?】


 そういえば、サリナさんとコラボしようと言ったっきり、まだしていなかったな。

 カレンとは何度もコラボしているのにな。

 サリナさんとデートには何度か行ったけど、そういえばコラボはまだだった。

 俺は二つ返事でオッケーする。


【もちろんです。よろこんで!】


 ということで、俺はサリナさんとコラボ配信をすることになった。

 でも、どこでなにをしようか。

 いろいろ話し合った結果、ダンジョンに潜って攻略配信をすることにした。

 

 ダンジョンの入り口で、サリナさんと落ち合うことになっている。

 渋谷のダンジョンに行くと、すでにサリナさんがきていた。

 サリナさんは、いつもと違い、探索者用の装備を着込んでいた。

 探索者ようの装備といっても、いかついやつじゃない。

 サリナさんのは機能性もありながら、おしゃれにも見えるかわいい防具だった。


「サリナさん、今日もおしゃれですね」


 俺は声をかける。


「ありがとうございます。そういうハヤテくんは、探索者丸出しって感じですね」

「あはは……まあ……」


 一方で俺の服装は、無骨な何の変哲もない探索者よう装備だ。

 そろそろ金も出来たから、装備を買い替えてもいいんだけどな。

 二人で話しながら、ダンジョンの中へ入る。

 まずは上層だ。


「そういえばハヤテくん」

「は、はい。なんでしょう」


 サリナさんにハヤテくんと呼ばれるのは、まだ慣れない。


「そろそろ敬語やめにしない? お互いにさ」

「そ、そうですね。うん、やめにしよう」

「よかった。じゃ、そういうことで、よろしくね」

「うん、よろしく」


 サリナさんとの距離もだいぶ近づいてきたと感じる。

 まだ、付き合うとかは無理だろうけど……。

 って、俺はなにを考えているんだ。

 ダンジョンの中だから、もっと集中しないと。


 今日は俺はおもちとだいふくを連れているが、サリナさんのほうはマロンはお留守番だ。

 さすがに普通の犬をダンジョンの中には連れていけないからな。


 俺たちはさっそくダンカメのスイッチをオンにして、配信を始める。


「はいどうもー。辻風ハヤテです。今日はダンチューバーのさりーにゃさんとコラボ配信です!」

 

 Twitterで告知すると、すぐに人が集まってきた。


『おおー! コラボか』

『ついにさりーにゃとコラボか!』

『まってました!』

『二人は付き合ってるの?』


「そ、そそそそんなわけないだろ!」


 俺はコメント欄に反論する。

 さりーにゃさんにはガチ恋勢が少ないから、こういった冗談も許されるみたいだ。

 ひかるんの視聴者だったら、冗談でもこんなこと言ったらギスギスしだすだろうからな。


「じゃあ、とりあえず。どんどん攻略していきます!」


 俺たちは上層へと侵入する。

 上層では、ゴブリンが多く出現した。

 俺は覚えたての攻撃魔法を放つ。


「火炎――――!!!!」


 ――豪ゥうううううう!!!!


 ゴブリンたちを一瞬で灰に戻す。


『すげええええええ!!!!』

『おじさんつえええええ!!!!』


「ハヤテくん、けっこう強いね。びっくりしちゃった……」

「いやいや、そういうサリナさんも。なかなか強いじゃん」


 サリナさんも危なげなくモンスターを倒していく。

 上層は難なくクリアして、俺たちは中層の入り口にさしかかる。


「中層……どうする……?」


 俺はサリナさんに尋ねる。


「私はいつも中層くらいなら平気で行ってるかな。ハヤテくんは、中層行ったことないんだっけ?」

「うん……。前にカレンとダンジョンにきたときは、上層でイレギュラーにおそわれて、それっきりだったからな……。結局、中層にはまだいったことないんだ……」


 さすがに、行ったことのない場所は緊張する。


「まあ、無理にとは言わないけど……。でも、今のハヤテくんなら全然大丈夫だと思うよ」

「そうかな」

「うん、たぶん下層でも戦えるくらいになってると思う」

「よし、じゃあいこう……!」


 俺は意を決して中層へと降りることにした。


 中層へ降りると、そこは森のエリアだった。


「ここが中層……」


 そのときだった。

 森の奥から、何者かがやってくる。


「ぴきゅい!」


 おもちが反応する。


 森の奥から現れたのは、小さな狐のモンスターだった。


「お、かわいい」


 しかし、どこか様子が変だ。

 狐モンスターは、血を流している。

 そして、こっちに向かってくるが、なにかに追われているようすだ。


「どうしたんだ……?」


 そして狐モンスターの後ろから現れたのは、巨大なオークだった。


「グオオオオオオオ!!!!」


 狐モンスターがオークに追われ、こちらへやってくる。

 狐モンスターは戦う気はないようで、弱ったまま、こちらへ寄ってくる。

 だいふくがそれを、助けるように寄り添った。

 もしかして、知り合いなのか……?


 とにかく狐モンスターに戦意はなさそうだ。

 だいふくは、俺の顔を見て、なにかを訴えかけてくる。


「がうがう……」


「俺に助けろって……?」


「がう」


「よし」


 俺は狐モンスターに回復魔法を放った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る