第23話 基本、ヘタレですからね


「遅くないですか……?」

「す、すまん……」


 家に帰った俺は、カレンに怒られる。

 おもちとだいふくの世話をカレンに任せていたのだが……。

 予定よりも遅くなってしまった。

 カレンには昼過ぎには帰ると言ってあったから、完全に嘘をついたことになってしまう。

 ひかるんとのデートがあまりにも楽しすぎた……。

 電車を乗り継いで帰ったから、もうすでに時刻は8時前だ。

 

「こーんな遅くまでひかるんとなにやってたんですかねぇ……?」

「うう……ごめんて」

「だめですよ? 先輩。JKをこんな時間まで連れまわすなんて、悪い大人です」

「いや、なにもやましいことはしてないから……」

「当然です! してたら地獄に落ちますよ? まあ。先輩のことだから、なにもできないのはわかってますけどね。基本、ヘタレですからね。あなた」

「うう……そこまで言うか……」


 まあ、実際俺は女性に対してなにかできるような男じゃないんだけどな……。

 軽々しく女に手を出せるような性格してたら、この歳まで彼女いない歴年齢やってないんだよ。


「私だって、貴重な休日ですからね? 休日丸一日つぶれちゃってますからねぇ。今日午後からいろいろとやろうと思ってたこともあったのに……」

「ほんと、それはすまん……まじですまん」


 俺はただただ平謝りするだけだった。


「まあ、埋め合わせしてくれればいいですけどね」

「うん、いくらでもするする」

「じゃあ、今日はとりあえずこのまま宅飲みです。もちろん、先輩のおごりですからね!」

「おう、わかったよ」

「たっくさん仕事の愚痴きいてもらいますからね!」


 ということで、急遽俺たちは家で飲むことになった。

 とりあえず、コンビニでいろいろ買ってくる。

 もちろん俺が買い出しにいかされた。

 つまみと酒を買って帰ってくると、カレンが袋を開けていた。

 カレンが持っていた袋は、今日俺が持ち帰った袋だ。

 ペットショップで、ひかるんから受け取った袋だ。


「先輩、これなにですか……?」

「ああ、それか。ひかるんからもらったんだよ。ペットのおもちゃだ」

「ふーん、じゃあ。これで遊んでみますか。せっかくだし」

「ああ、うん。そうだな」


 せっかくだから動画も回そうということで、急遽カレンとのコラボ動画を撮ることになった。

 今回は俺がカメラマン役だ。

 おもちゃは、骨のような形のおもちゃで、犬がよろこびそうなやつだった。

 振ると、がちゃがちゃと音もでる。

 カレンはおもちゃを手にもつと、さっそくだいふくに向けて放り投げた。

 だいふくはそれを、うれしそうに追いかける。


「がうがう……! がうー♪」


 はは、なかなか可愛いな。

 動物と戯れる少女の図。

 カレンもだいふくもどっちも可愛い。

 これは視聴者も喜ぶだろうな。

 だいふくはおもちゃが気に入ったようで、いつまでもガブガブしていた。

 ひかるんには感謝だなぁ。


 一通り動画を撮り終えて、俺たちは夕飯を食べる。

 カレンがあり合わせの食材で、適当に料理してくれた。

 マジでいい後輩だ。

 それから、酒を開ける。

 カレンと俺はそうそうに酔っ払い、会話に華を咲かせた。


「マジで上司がー」

「うんわかるわかる」


 二人とも酔っ払って、仕事の愚痴を言い合う。

 まあ、俺はもう脱サラしたから、過去の愚痴だけど。

 それでも、カレンの気持ちはよくわかる。

 そうこうしているうちに、もう夜も遅くなってきた。


「あ……もうこんな時間か……」


 すっかり話に夢中になっていた。

 カレンに申し訳ないな。

 カレンのほうを見ると、カレンは火照った真っ赤な顔で、


「終電……すぎちゃいましたね……」

「ああ……そうだな……」

「泊っていって、いいですか?」

「ああ、もちろんだ。俺はいいけど……」


 俺はべつに、後輩のひとりくらい泊めるのに問題はない。

 だが、カレンはいいのだろうか。

 嫁入り前の娘が、おっさんの家に泊まったりなんかして。


「先輩、襲ってもいいんですよ?」


 カレンは冗談めかしてそんなことをいう。


「誰が襲うか、アホ」

「へへ……」


 こういった冗談を気軽に言い合えるくらい、俺たちは仲がいい。

 ただの後輩と先輩って感じで、男女の仲って感じはまったくない。

 だから、まあ俺としてもカレンを泊めるのくらいはお安い御用だ。

 万が一にも、間違いなんかないからな。


「じゃあ、俺も疲れたし、もう寝るか……」

「え……あ、そうですね……」


 俺は二人分の布団をしいて、眠りにつく。

 ちなみに、布団は前よくユウジが泊りにきたりしてたので、二人分あるのだ。


「え……あの……先輩……本当に寝るんですか……?」

「え……そりゃそうだろ。夜なんだし……」

「そ、そうですよね……」


 俺はすっかり今日の出来事で疲れてしまっていて、すぐに寝息を立て始めた。


「もう……先輩の馬鹿……」


 カレンの声がきこえた気がするけど、もう眠たくてそれどころではない。

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