辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。それはそうと、美少女有名配信者を助けた救世主が俺だとバレて、バズって大変なことになってるみたいですね?
第22話 まだ帰りたくないって言ったら……どうします?
第22話 まだ帰りたくないって言ったら……どうします?
ペットショップから出て、イオンの中を二人でブラブラと歩く。
すると、ひかるんが一つの店を熱心な目つきで見ているのに気付いた。
「あそこの店が気になるのか? 入るか?」
「え……い、いえ……いいんです。今日は私のことは」
ひかるんが見つめていたのは、可愛い服がたくさん置いてあるアパレルショップだった。
ひかるんも年頃の女の子だし、それなりにファッションには興味があるのだろう。
今日は俺のためにいろいろしてくれたんだし、買い物に付き合うくらいなんでもないんだけどな。
「よし、入ろう」
「で、でも……」
「いいから。ほら」
「じゃ、じゃあ……少しだけ……」
俺はその店に入っていった。
ひかるんも、後ろからついてくる。
しばらく店内を見て回る。
俺なんかが一人でいたら場違いなくらいオシャレな店だ。
ひかるんは興味深そうに服を物色する。
「それ、気に入ったのか……?」
ひかるんがしきりに同じ服の前を行ったり来たりするので、尋ねてみる。
「ええまあ……でも、今日はいいんです。今日は辻風さんのお礼できてますから」
「まあまあ、俺のことは気にしないでいいって。もう十分お礼はしてもらったんだしさ」
「でも……」
「俺だって、ひかるんに今日のお礼したいくらいだぜ? それに、こうして一緒に買い物するのも楽しいしな。これだって、俺にとっては立派なご褒美だし、お礼になってる」
「辻風さん……ありがとうございます」
なんだか自分で言っていて少し照れくさいけど、全部本心だ。
「これ、試着してみたらどうだ?」
「で、でも……」
「いいから、きっと似合うとおもうぞ?」
「はい……」
ということで、ひかるんは試着室へ。
それだけ気に入ってるんだったら、試着くらいするべきなのだ。
服は欲しいと思ったときに買うのが一番だからな。
しばらくして、ひかるんが試着室から出てくる。
秋っぽい色のワンピースで、とても清楚な雰囲気のひかるんが、そこにはいた。
まるで天使みたいに立っていた。
「き、綺麗だ……」
俺は思わず口にしてしまっていた。
「ふぇ……!? き、きれいですか……!?」
ひかるんは顔を真っ赤にして恥ずかしがる。
俺も迂闊なことを言ってしまったな……。
JKにこんなこと言ったらまずいだろ……。
最悪つかまりかねない。
「あ、ああ……すまん、つい。思ったことをそのまま口にしてしまった……」
「い、いえ……ありがとうございます……」
しばらくひかるんは鏡を見たりして、自分でもいろいろ眺めていた。
どうやら自分でも気に入ったようだ。
「じゃあ、もう一回着替えますね」
「もういいのか……?」
「はい、ちょっとこれは高いので……また今度にします。とりあえず試着できて、今日は満足しました」
「そっか……」
ひかるんはそう言って、再び試着室のカーテンを閉めると、しゅるしゅると服を脱ぎだした。
高いので……か。
きっと高校生の少ない小遣いながら、俺へのお礼にいろいろつかってくれたんだろうな。
まあ、ひかるんは人気ダンチューバーだから、その辺の高校生よりはお金もってそうだけど。
それでも、親にいろいろ管理されたりもしているだろうから、いくらでも好きに金がつかえるってわけじゃないだろう。
そんな中で、身銭を切って俺にお礼をしてくれたんだ。
そう思うと、本当にいい子だなと思う。
俺もなにかひかるんにできることはないかなと思う。
「そうだ……!」
俺はひかるんが着替えている間に、ひかるんが着ていたのと同じサイズの服をレジに持って行く。
そして、清算する。
しばらくして、ひかるんが試着室から出てきた。
「ありがとうございました。じゃあ、行きましょうか」
「ああうん、その前に、これ」
「え…………?」
俺はひかるんに、先ほどの服を手渡した。
「これ、さっきの服。よほど気に入ってたみたいだったから、俺からのプレゼントだ」
「そんな……! いけませんよ! 今日は私がお礼する日なのに……」
「まあまあ、いいから。これは俺からの純粋なプレゼントだ。感謝の気持ちだ。お礼っていうのなら、これもお礼だと思って、どうか受け取ってくれないか?」
「そ、そういうことなら……ありがとうございます……」
ひかるんは満面の笑みで、俺のプレゼントを受け取ってくれた。
これでもまだまだひかるんからしてもらったことに釣り合わない気もするけど。
「辻風さん、これ、大事にしますね……!」
「ああ、うん」
ひかるんはめちゃくちゃ喜んでくれた。
こういうところも、やっぱりめちゃくちゃ素敵な子だなと思う。
さて、そろそろもういい時間だ。
18時。
外も暗くなり始めているころだ。
さすがに夕飯まで食べてちゃ遅くなる。
そろそろひかるんを駅まで送らなきゃだな。
俺たちはイオンを出て、駅まで歩き始める。
「ひかるん……じゃなかった……。ひかるちゃん。今日はありがとう。めちゃくちゃ楽しかったよ」
「いえ、こちらこそ。ありがとうございました」
「じゃあ、気を付けてね」
俺は改札の前までひかるんを送り届ける。
ひかるんは名残惜しそうにこちらを見ながら、
「あの……」
「ん……?」
「まだ帰りたくないって言ったら……どうします?」
「え…………?」
上目遣いでそんなことを言われて、俺は一瞬理性がフリーズした。
危ない危ない……。
しかもひかるんはいじらしくも、俺の服の袖をつかんでいる。
かわいい……。
なんとも魔性の女だ。
「だ、ダメだよ……。そろそろ帰ったほうがいいって……家の人も心配するだろうし……」
「家の人……そ、そうですね……そうですよね……あはは……」
「う、うん」
「じゃ、じゃあ……これで……」
ひかるんは改札の向こうに走っていった。
ふぅ……なんとか抑えたぞ……。
これで、よかったんだよ……な?
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