第18話 あはは……お邪魔してますー

※今日から12時12分と20時12分の一日2話投稿にします。



 そんな感じで、しばらく雑談をつづけた。

 我ながら、初配信のわりにかなりいい感じに話せたのではないかと思う。

 いつのまにやら、同時接続人数が5000人を超えていた。

 スパチャの合計額も、かなりすごそうだ。

 あまりにもスパチャをもらってしまって、もうしわけないような……。

 ここはなにかお礼をしたいところだ。

 視聴者サービスってやつだな。


「みなさん、本当にありがとうございます。ここで、ちょっとお礼も兼ねて、だいふくのご飯の時間なので、ごはんをあげる配信をしたいと思います」


 俺はビーフジャーキーを手にとった。


『おお! 来ました!』

『wktk』

『生だいふく!』

『いいねぇ!』

『サービスありがたい!』


 やはり視聴者はみんな、おもちとだいふくを目当てにやってきてくれているからな。

 俺が雑談ばかりしているよりも、おもちとだいふくを映したほうが喜ばれるだろう。

 俺はビーフジャーキーとボールを手に持った。

 実はこういうときのために、だいふくにはちょっとした芸を仕込んであるのだ。


「よしだいふく、これができたら、ビーフジャーキー食べれるからな」

「がうがう♪」


 俺はボールを手に持って、部屋の隅に向かって放り投げた。


「それ! とってこい!」

「がうがう!」


 だいふくはボールめがけて一直線。

 ボールをくわえて、すぐに俺のもとへ戻ってきた。

 俺はだいふくからボールを受け取り、頭をわしわしと撫でてやる。


「ようし、偉いぞだいふく!」


 コメント欄も盛り上がる。


『おお! さすがはだいふく!』

『かしこい!』

『えらい!』

『うちの馬鹿犬より賢い』

『はえーすっごい』

『ちゃんとしつけられてるな』

『ご褒美ご褒美!』


 俺はだいふくに、ビーフジャーキーを渡してやる。


「えらいぞー。ご褒美にこれ食べていいからな!」

「がうがうー♪」


『だいふくはおいしそうにたべるなぁ』

『かわいい』


 そうこうしているうちに、あっというまに配信開始から1時間が経とうとしていた。

 そろそろ切り上げるか、と思ったときだった。

 ふとコメント欄を見て、俺は驚いた。


『だいふくちゃんかわいい!』


 その何気ないコメント。

 そのコメントのアカウント名は――。


「ひかるん……!?」


 そう、俺が以前助けたという、あの有名配信者のひかるんが、俺の配信にコメントしてきたのである。

 突然のひかるんの登場に、コメント欄もざわつき始める。


『ひかるん……!?』

『まって、これ本物!?』

『これ本物だ!』

『ひかるん降臨キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』

『ひかるんこれでおじさんにお礼言えるな』

『ひかるんとのコラボくるか!?』

『初接近!』

『盛り上がってまいりました!』


 まじか……このひかるん本物なのか……。

 ひかるんと言えば、俺が偶然イレギュラーから助けてしまった有名アイドルダンチューバーだ。

 そのせいで、俺はこうしてバズりちらかしているんだけど……。

 そのひかるんが俺のコメント欄なんかに現れて、いったいなんのようなのだろうか。


『ひかる:あはは……お邪魔してますー』


 コメント欄の反応に、ひかるんはそんな反応を返す。

 さすがにひかるんの影響力すごいな。

 一瞬でコメント欄がひかるん色だ。


『うおおおお! マジでひかるんだ!』

『神降臨!』

『ひかるんが他人の配信にコメするとかめちゃくちゃ珍しくないか?』

『だよな。あのひかるんが……』

『しかも男と絡むとか、ひかるんのファン発狂しそう』


 どうやらコメント欄の感じからしても、ひかるんがこうして他人の配信に現れたりするのはレアなようだ。

 しかも、ひかるんはアイドル性で売っているから、男性ダンチューバーともめったに絡まない。

 そんなひかるんが、わざわざ俺の配信に……。


『ひかる:あの、どうしてもお礼言いたくて。この前は、ありがとうございました』


 律儀な子だなぁ。

 俺は別にそんなに助けたつもりもないんだけどな……。


「いえいえ、あれくらい。気にしないでください。いつもやってることですから」


 ヒールなんて減るもんでもないし、俺は気が向いたときにはいつも辻ヒールしていた。

 それがたまたま、今回はひかるんだったってだけのことだ。

 俺は普通にそう答えただけなのだが、なぜかコメント欄がまた盛り上がり始める。


『かっけえw』

『さすがは辻おじ』

『いつもやってるところがすごいんだよなぁ』

『ぐう聖人』

『謙虚だなぁ』

『普通はあそこまで他人にヒールできないw』

『だよなぁ魔力切れとか気にするよなぁ』


 魔力切れか……そういえば気にしたことなかったな。

 俺は上層で雑魚モンスターと戯れているだけだし、そもそもそこまで魔力を使わないからなぁ。

 だから傷ついている人がいたら、気兼ねなく辻ヒールをしていたのだ。


『ひかる:とにかく、どうしてもそれだけ言いたかったんです。ありがとうございました。本当に。では、あまり長くお邪魔してもアレなので……。配信たのしかったです!がんばってください!』


 ひかるんはそれだけ残して、配信から去っていった。

 ほんとうにいい子だったなぁ。

 コメント欄も、ひかるんのことを名残惜しそうに見送る。

 ひかるんも去ったことだし、そろそろ俺も本当に配信を切り上げるかな。


「えーっとじゃあ、そろそろ配信を終わります。見てくださってありがとうございました。またよろしくお願いします」


『おつー!』

『楽しかった! ありがとう!』

『またやってね!』

『スパチャもっと投げさせろ!』

『ひかるんも見れたし、神配信だったな』

『次の動画も楽しみにしてる!』


 あたたかいコメント欄に見送られながら、俺は配信終了のボタンを押した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る