第17話 とまあ……そんな感じで今に至ります
サリナさんが、こんなことを言っていた。
「そういえば、配信はしないんですか?」
「配信、ですか……まだ生放送はちょっと、ハードルが高いですね」
「でも、きっとファンの皆さんは辻風さんの配信を待ちわびていると思いますよ?」
「そうですかねぇ……」
「雑談配信なんかどうでしょう? みんな、辻風さんのこともっと知りたいと思っているはずですよ。きっと喜ばれると思います。質問コーナーとかやってみたり。大丈夫、配信のやり方なら、私が教えます」
ということで、俺は今日、初めての配信をやろうと考えていた。
たしかに、収益化も通ったから、そろそろ配信をするのはいいかもしれない。
スパチャとかもらえるかもしれないしな。
スパチャというのは、いわゆる投げ銭のことだ。
配信者に、ファンがお金を渡せるシステムだな。
「えーっと、これでいいんだよな……?」
俺は配信ソフトを起動して、配信スタートのボタンを押す。
チャンネル登録者は現在25万人。
さて、いったいどれくらいの人数が見にきてくれるのだろうか。
【『おもちとだいふくチャンネル』が配信を開始しました】
『お! 辻ヒールおじさん配信してんじゃん!』
『おお初配信か』
『わこつ』
『キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』
『なになに? 雑談配信?』
『質問したいこといっぱいある!』
俺が配信スタートのボタンを押すと、瞬く間にコメント欄が流れ始めた。
「おお……!? さすがに人来るの早すぎねぇ!?」
同時接続人数を見ると、一瞬で500になっていた。
それから、どんどん数字が増えて、あっという間に2000人。
「え、えーっとそれじゃあ、なにか質問とかあったら拾っていきます。今日はのんびりとした雑談配信になります」
俺はあぐらの上にだいふくをのせて、あたまの上におもちをのせて、配信画面に映りこむ。
コメントを目で追いながら、次になにを話すかを考える。
『おお! おもちちゃん頭に乗ってるwかわいいw』
『だいふくカメラ目線かわわ!』
『おじさんもかわいいな』
『おいw』
『質問かー』
『おお、もう3000人いくじゃん。すご』
『辻ヒールおじさん何歳なの?』
俺は質問を見つけて、それを読み上げる。
「えーっと、俺は今年で42ですね」
『うっそwわっかw』
『35くらいに見える』
『俺は28くらいかと……』
『イケおじだなぁ……』
『俺と同い年かよw』
あまり俺個人のことはきかれたくないんだけどな……。
イケおじなんて言われても、よくわからない。
なんだか恥ずかしいだけだ。
その後も、コメント欄はすさまじい勢いで進む。
あまりにも流れが速すぎて、眼で追えないくらいだ。
その中から、俺はどうにか一つ質問を見つけて拾い上げる。
「えーっと、だいふくとおもちとの出会いについて……ですか。そうですねぇ」
俺は、二匹との出会いについてかいつまんで説明した。
おもちが怪我しているだいふくを連れてきたこと、そして俺がそれを治したこと。
あれ、でもそういえば、おもちとだいふくはそもそもなんで出会ったんだろう?
俺はおもちとだいふくの出会いについては知らないな。
おもちとだいふくは、いつから仲が良かったのだろうか。
まあ、いいや。
「とまあ……そんな感じで今に至ります」
このエピソードは、サリナさんが写真と一緒にツイートしてたから、まあ知っている人は知っているんだけど。
ツイートを見てない人もいるだろうから、一応説明しておいた。
どうやらこのエピソードを知らなかった人たちもかなりいたようで、コメント欄は大盛り上がりになる。
『すげえ! めっちゃいい話じゃん!』
『おもちちゃん優しい!』
『だいふくちゃん、よかったね!』
『さりーにゃがツイートしてたな、そういえば』
『美談だなぁ』
『さすがは辻おじ! 優しい!』
『へぇ、モンスターって種類ちがっても助け合ったりするんだなぁ』
なんだか褒められて、持ち上げられると妙な気分になるな。
俺はただ、そこに傷ついているやつがいたら、助けているというだけなのに。
すると、こんどはこんなコメントが流れてきた。
『そういえば、スパチャオンにせんの?』
スパチャというのは、投げ銭のことだ。
そのコメントに呼応するように、他のコメントも流れ始めた。
『スパチャ投げさせろ!』
『スパチャオンになってないよ』
『収益化通ってるなら、設定から変えられるはず』
どうやら、この配信ではスパチャ機能がオンになっていなかったようだ。
そういえばさっきからスパチャがなかったもんな。
単に俺にそこまでの人気がないだけかと思っていたが、どうやらオフになっていたらしい。
俺はコメント欄の指示にしたがって、設定からスパチャをオンにする。
すると――、スパチャをオンにしたとたんに――。
コメント欄に流れ始める――。
『初スパチャ! 500円』
『オラ! くらえ! 2000円』
『さっきのいい話代 1500円』
『俺も辻ヒールおじさんに助けられました。あのときはありがとうございました。 5000円』
『おもちちゃんかわいい代 200円』
『だいふくの肉代 700円』
『スパチャ解禁祝い 10000円』
『辻ヒールおじさんにヒールしてもらった代 3000円』
『あ、俺も俺も! お礼言いたかったんだよね。お礼させろ! 5000円』
『あーあれこの人だったのか』
『俺も一回お世話になったことあるんだよな……』
『辻ヒールしてくれる人珍しいから、ありがたいよね』
『本当にいい人なんだな』
などなど、次々にスパチャが流れ始めた。
ふおおおおおおおお……!?
俺ってこんなに人気だったの……!?
なんだかありがたいような、もうしわけないような……。
「み、みなさん……! スパチャありがとうございます。あとで全部お名前読み上げさせていただきますね……!」
ただただお礼を言って恐縮するだけだ。
スパチャの何割かは、俺に対するお礼のメッセージだった。
どうやら、俺が過去に辻ヒールで救ったというダンジョン探索者らしい。
そういえば、ダンジョンの中で困ってる人によくヒールしてまわってたっけ。
まさか、そんなことをいちいち覚えている人がいるなんてな。
俺はべつに、見返りを求めてやっていたわけじゃないんだけどな。
でも、こうしてお礼を言われるのはわるい気分じゃない。
ありがたく受け取っておこう。
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