第16話 ふーん、じゃあ、私が狙っちゃおうかな?


 案件動画を撮った翌日、俺は天音サリナさんと会う約束をしていた。

 天音サリナさん、以前ヨドバシカメラにダンカメを買いに行った帰りに、知り合った女性だ。

 サリナさんも犬を飼っていて、それがきっかけでお近づきになれた。

 我ながら、よく勇気を出したと思う。

 サリナさんみたいな美人と出会う機会なんて、なかなかないぞ。

 普段俺はカレンくらいしか異性の知り合いもいなかったから、これはチャンスなのだ。

 こんなチャンスをくれたおもちとだいふくにはマジで感謝だな。


 だけどまさか、サリナさんが有名ダンチューバーのさりーにゃだとは知らなかった。

 いやまあ、俺がダンチューバーに疎いせいなのかもだけど。

 さりーにゃがSNSにあげた画像のおかげで、俺の動画はさらにバズったわけで。

 今回はそういったいろいろなことを話したり、さらにサリナさんとお近づきになるために、俺から誘ったのだった。

 サリナさんとは駅前のおしゃれなカフェで待ち合わせだ。

 俺は少し早めに行っておく。

 少しして、サリナさんがやってきた。


 ちなみに、愛犬のマロンも一緒だ。

 俺もおもちとだいふくを連れている。

 おもちは俺の膝の上に載っている。

 あらかじめ、ペットオーケーなお店を選んでおいた。

 東京だからそういう店も珍しくない。


「こんにちは、辻風さん。今日は誘ってくれて、どうもありがとうございます」

「いえいえこちらこそ、来てくれてありがとうございます。サリナさん。それにしても、まさかサリナさんがあんなに有名なダンチューバーさんだったなんて、知りませんでしたよ」


 最初にダンチューバーをやってるときいたときは、カレンのような底辺ダンチューバーを想像した。

 しかしそれがまさか、あのひかるんにも並ぶほどの有名ダンチューバー、さりーにゃだとは。

 俺って今までぜんぜんダンチューバーとか見てなかったから、顔とかもぜんぜんわからないんだよな。

 ひかるんのときも、ぜんぜん誰だかわからずに助けたわけだし。


「あはは、ごめんなさい。東京住んでて私のこと知らない人あまりいないから、珍しくって」

「すみません、疎くて」

「いえいえ、うれしかったんですよ?」

「え?」

「さりーにゃと知らない人とお友達になれると思って、うれしかったんです。いつも近づいてくる人はさりーにゃ目当てですからね」

「な、なるほど……そういうことですか。いろいろ大変そうですね有名人っていうのも」

 

 俺はなんとか照れながらも会話をする。

 サリナさんは美人だし、やっぱりまだまだ緊張するなぁ。


「動画、順調そうですね! めちゃくちゃ伸びてるじゃないですか」

「いやぁ、おかげさまで。やっぱり、さりーにゃさん……じゃなくて、サリナさんがSNSに画像あげてくれたのが大きいですよ。すごいリツイート数でしたもんね」

「いえいえ、私なんかそれほどですよ。それよりやっぱりいちばん大きいのは、ひかるんを助けたことじゃないですか?」

「はぁ……それですか」


 正直、ひかるんを助けたとちまたでは言われているけど、あまり実感がない。

 俺は元々、ダンジョンで困ってる人がいればいつも辻ヒールで助けていた。

 あのときも、べつに困ってた人がいたから助けただけだ。

 それがまさか有名ダンチューバーのひかるんで、配信中だなんて思わないじゃないか。


「私も切り抜きみましたもん。カッコ良かったですよ? 辻風さん。さっそうと現れてヒールして救っていく、まるでヒーローみたいでした」

「や、やめてください……そんないいもんじゃないですよ。俺はただ通りがかっただけで」

「でも、なかなかできることじゃありません。勇気ある行動です。普通イレギュラーをみたら、逃げちゃいますもん」


 俺の場合、あまりダンジョンの奥にいかないので、危機感がないだけというか。

 まあ生きているのが幸いだ。

 逃げ足だけは自信があるからな。

 正直俺は上層のモンスターでさえ苦戦するレベルで戦闘能力はない。

 だから、せめて攻撃を避けれるようにはしてあるのだ。


「そういえば、ひかるん、あらためて辻風さんにお礼したいって言ってましたよ。配信で。そのうち、なにかあるかもしれませんね?」

「うーん、俺としてはもうお礼とかいらないんですけどね。むしろもう十分もらっているというか。動画もおかけでバズってますしね」

「これをだしにひかるんと付き合っちゃえばいいじゃないですか」

「ぶふーーーー!!!?」


 サリナさんがとんでもないことをいいだすので、俺は思わず紅茶を吹き出す。


「そ、そんなのありえないでしょう! 俺みたいなオッサンが……それに、向こうは現役高校生の有名ダンチューバーですし」

「でも、もはや辻風さんも有名ダンチューバーですけどね? あ、もしかして彼女さんいました? この前動画でコラボしてた子ですかね?」


 サリナさんが言っているのはカレンのことだろう。


「な、そんなわけないじゃないですか! カレンはただの元同僚ですよ」

「ふーん、じゃあ、私が狙っちゃおうかな?」

「へ……?」


 いまサリナさんはとんでもないことを言ったような気がする。

 しかし店内の雑音でよくききとれなかった。


「ふふふ、冗談です。あ、でも、こんど私ともコラボしてくださいね?」

「え、ええ。それはもう、もちろん」


 ということで、俺たちは今度コラボするという約束をして、解散となった。

 ふぅ、サリナさん、なかなかぶっ飛んでる人だなぁ。

 

 


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