第13話 だから、そう言ってるだろ


「それで、なんのようでしょう……」


 社長室に呼び出された俺は、おそるおそる尋ねる。


「君にお客さんでね」

「はぁ」

「プレデターウェアというパソコンの会社を知っているかな?」

「ええ、それはもう。うちでも何度か仕事を受けたことはありますよね」

「うむ」


 プレデターウェアってのは、海外資本の巨大なパソコンブランドの企業だ。

 かなりでかい会社で、最近ではエナジードリンクなんかも展開している。

 e-sportsチームなんかも持っていて、エナジードリンクはそれとも絡めて売り出されている。


「こちら、プレデターウェアの茶会茶さかいちゃトラオさんだ」


 社長は、一人のスーツ姿の男性を俺に紹介する。

 茶会茶……どこかで聞いたことのある名前だなと思う。

 まあ、珍しい苗字だしな……。

 茶会茶と紹介された人物は、俺に名刺を手渡して、おじぎした。


「茶会茶トラオです。よろしくお願いいたします」

「あ、これはご丁寧に……どうもって……ん……!?」


 茶会茶トラオの顔を見て、俺は完全に思い出した。

 大学時代、同じ学部にいた、その男のことを――。


「よ! 辻風! 久しぶりだな」

「お、お前……!? 茶会茶トラオか……!?」

「だから、そう言ってるだろ」


 完全に思い出したわ。

 茶会茶トラオ、こいつは大学時代、同じ学部だったやつだ。

 成績優秀で、スポーツマンで、きっといいところに就職するんだろうなと思っていたが、まさかプレデターウェアに就職していたとはな……なかなかやるなぁ……。

 こんなクソ企業で仕事している俺とは、大違いだ。


「それで、俺になんのようなんだ……?」

「動画を見たんだよ。動画。モンスター飼ってるんだろ」

「お前もそれか……」

「それでな、うちの会社、プレデターウェアとしては、おもちちゃんとだいふくちゃんに、宣伝を頼みたいと思ったんだよ。それで、動画を見ていて気付いたんだ。動画の主がお前だっていうことにな。それで、友達づてにお前の会社をつきとめたってわけ」

「なるほどな……」


 俺たちが話していると、社長が話に入ってきた。


「茶会茶さんはな、それで辻風くんに企業案件を頼みたいといっているんだよ。ついでに、うちにも大口の仕事を回してくれるといっているんだ。受けてくれるな?」

「ええ、そういうことでしたら……まあ」

「よかった」


 なるほどな、社長にも益がある話ってことか。


「じゃあ、詳細はまた後日メールするから。そういうことで、よろしくな。上手く行ったらまた飲みにでもいこう。大学時代の話に華を咲かせようぜ」

「ああ、わかった」


 茶会茶はそう言って颯爽と去っていった。

 それにしても、さっそく企業案件かぁ……。

 プレデターウェアだし、かなりの額もらえるんじゃないか?

 動画も伸びているし、これはマジで会社やめれるかもな。


 社長は機嫌がよくて、そのまま俺に楽な仕事を回してくれた。

 おかげで、その日は久しぶりに楽だった。

 俺に振られていた厄介な仕事は、クソ上司に押し付けられて、ざまぁみろって感じだ。



 ◇



 それからしばらくして、俺の動画の収益化が通った。

 ちょうど月も変わり、一気に俺のふところに、50万ほどの金が入ってきた。

 ひええええ……これマジで会社やめれるんじゃないの?

 月末だけの再生数でこれだけだ。

 来月はもっとえぐい金になるんじゃないのか。

 しかも企業案件も待っているからな。


 ということで、俺はもう仕事をやめてやることにした。

 正直言って、もう限界だったからな。

 社長も、俺がやめることに同意してくれた。

 俺のおかげでプレデターウェアとのパイプができたから、まあ、引き留められはしたんだけどな……。

 でも、俺のおかげでプレデターウェアから仕事をもらったから、しばらくは安泰らしい。


 ちなみに、俺の抜けた穴を、社長はクソ上司に埋めさせようとしたらしい。

 今までクソ上司は俺に仕事を押し付けていたけど、押し付ける相手がいなくなって、自分でやる羽目になったんだとか。

 人員が減ったことで、クソ上司は自分で手を動かさざるを得なくなった。

 うちの会社に、すぐに人を補充できるほどの余裕もないしな。

 

 プレデターウェアから受けた大口の仕事、クソ上司はとんでもないミスで台無しにしてしまったらしい。

 今まで自分でろくに手を動かさず、人に押し付けていたつけがまわってきたのだ。

 クソ上司は責任をとって、仕事をくびになったらしい。

 正直いって、ざまぁみろって感じだ。

 代わりにユウジがチーフに昇格したらしい。

 ユウジはクソ上司の失敗をみごとにカバーして、プレデターウェアの仕事を上手くたてなおしたのだとか。

 ユウジは俺のおかげで出世できたと、礼を言っていた。


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