第12話 おい、今週もデスマーチだ!
「まあ、そういうことで、お前は一躍有名人ってわけだ。まったく、うらやましいぜ」
「そういうことかぁ……」
友人のユウジは、俺にいろいろスマホで画面を見せてくる。
俺の動画は200万再生を超え、チャンネル登録者は20万人らしい。
はえぇえ……。すっごい。
正直、自分でも引くくらいだ。
もうなにがなんだかわからない。
現実味がなさすぎる。
「このぶんなら、収益化も通るだろう。申請しておけよ? いいなぁ、脱サラできるじゃん!」
「脱サラかぁ……」
そう言われても、ほんとうに動画で稼げるのか?
俺はまだ半信半疑だった。
「こんなクソみたいな職場、さっさとやめちまえよ! お前もダンチューバーになれば、楽々暮らせるくらいは稼げるはずだぜ? なんたって、さりーにゃとひかるんから推されてんだからよ。もうよゆーよ」
「まあ、クソみたいな職場だって部分には大いに同意するが……」
そう簡単に職場をやめる決心がついていれば、俺はすでにここにはいないだろうよ。
「あ、Twitterアカウントも作っておけよ? 宣伝には必須だからな」
「ああ、まあ。俺はTwitterとかやってないしな」
どうもそういう世界には疎い。
「ダンチューバーとなれば、他のダンチューバーとの絡みとかも大事だからな。Twitterは必須だぞ」
「そうなのか。まあ、考えておく」
俺とユウジがそんなことをしゃべっていると、もう一人の同僚が近づいてきた。
彼女は俺の後輩にあたる女性だ。
名前は、
カレンは合法ロリって感じの見た目の女だ。
あまり異性として意識することもないかんじで、話しやすい。
「ハヤテ先輩! 動画みましたよー!」
「お前もか……」
「スライムちゃんも子狼ちゃんも、めちゃきゅーとですね! 今度見にいってもいいですか!?」
「ああ、まあ……好きにしろ」
「私ともそのうちコラボしてくださいよ! 私の再生数、救ってください!」
「ああ、まあ……うん、いいけど」
「やたー!」
そういえば、カレンもダンチューバーをやっていたっけ。
たしかろくに再生数も稼げない、底辺ダンチューバーとかいう感じだったはずだ。
そうこうしているうちに、会社にも人が集まってきた。
そろそろ始業時間だ。
女性社員たちが、俺のもとに集まってくる。
そしておそるおそる、話しかけられる。
正直、カレン以外の女性社員とはまり話したことがないから、こちらも緊張する。
「あ、あの……! 辻風さん! 動画みました!」
「ど、どうも……」
普段こんなふうに女性社員たちにとりかこまれ、話しかけられることなどは皆無だ。
なんか、いい匂いがする。
とりかこまれている俺を、カレンがにらみつけてくるけど、なんでだ?
「わ、私もみました! すごいですね! めちゃかわいいです!」
「こんど写真みせてくださいよー!」
「先輩! こんどご飯いきましょう!」
「今度おうちにいかせてくださいよ!」
「ひかるん助けたって本当ですか……!? かっこいい!」
「いつも辻ヒールしてるんですか? 優しいんですね……!」
「素敵……! 抱いて……!」
いっぺんにそんなことをいろいろ言われて、俺は困惑してしまう。
先週まで職場の中で空気みたいだった俺が、なんでこんなことになってるんだ?
そんなふうにすごしていると、仕事開始の時刻になった。
みんなそれぞれのデスクにつく。
しばらくして、上司が遅れてやってきた。
みんなから嫌われているクソ上司。
香我美はどん、と鞄をデスクに置くと、みんなに話しかけた。
「おい、今週もデスマーチだ! お前ら覚悟しろよ!」
「そんな……! 納期は先週で終わりでは……!?」
ユウジが立ち上がり、反論する。
「はぁ……? 寝ぼけたこと言ってんじゃねえ! 先週終わったから、さらに機能を追加できる余裕があるって、クライアントに話したんだよ! そうしたら、ほら、新しい発注書だ」
「な……! なんでそんなこと……他にも仕事があるんですよ!?」
「はぁ!? 俺が仕事とってきてやってんだから文句言うな! そんな暇があるなら手を動かせ!」
「っく……」
マジでクソ上司だ。
こいつ、現場がどれだけ辛いかわかってねえ。
嫌がらせとしか思えない。
いや、実際嫌がらせだった。
「おい、辻風」
クソ上司は俺のもとへやってきて言った。
「お前はこの部分をやれ。期限は今日中だ。いいな?」
「は……? む、無理ですよ……!」
「いいからやれ! お前みたいなの、変わりはいくらでもいるんだからな。それと、なにか動画が話題みたいだが……あまり調子に乗るなよ? お前はあくまで、俺の都合のいい奴隷なんだからな」
「っく……」
あ、これ俺への嫌がらせですね。
はい。
くそ……マジでクソ上司め。
はやくこんな職場やめたい……。
俺にだけ仕事押し付けやがって……。
このクソ上司は、無理な納期でしごとをどんどん引き受けてきやがる。
こっちのことなんてお構いなしだ。
しかも自分はろくに仕事をせずに、全部俺たちに丸投げするし……。
そう思っていると、突然、オフィスのドアが開いた。
そして、社長が入ってきたのだ。
「しゃ、社長……!?」
「辻風くんはいるか? 辻風ハヤテくんだ」
「つ、辻風はここですが……」
俺は立ち上がり、返事をする。
「辻風くん、ちょっときてくれるかな。私のオフィスまで」
「あ、はい……」
いこうとする俺を、クソ上司がひきとめる。
「社長! お言葉ですが、辻風には仕事があります。大事な案件なんです」
クソ上司め、俺の妨害しやがって。
どうしても俺にこのクソ仕事をやらせたいようだ。
だが――。
「なら代わりに君がやりたまえ。辻風くんにはもっと大事な用事がある」
「そ、そんな……ですが……」
「これは社長命令だ! あとは君がぜんぶやりたまえ!」
「ぐぬぬ……」
はは、ざまぁみろ。
クソ上司、俺に押し付けるためにもってきた仕事を、全部自分でやるはめになった。
これはざまぁみろだわ。
俺はなぜか、仕事から解放され、社長室へ。
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