第6話 あ……おもちとだいふくです


 一夜明けて、日曜日。

 俺は電気屋にいくことにした。

 さすがにモンスター連れて出歩くのは緊張するな。

 けっこう目立ってしまうかな。

 だいふくはまあ、一見して普通の犬に見えるから大丈夫だけど。

 おもちはどうしても目立ってしまうなぁ。


「そうだ!」


 俺はリュックサックをタンスから引っ張り出してきた。

 大学時代、旅行なんかでよく使っていたリュックサックだ。

 なつかしい。


「おもち、お前これに入れるか?」

「きゅい?」


 俺はリュックサックの中に、おもちを入れた。

 ちなみに昨日はあれだけ大きくなっていたおもちも、朝になったら元のサイズに戻っていた。

 おもちをリュックサックの中に入れ、それを背負う。

 狭いけど、我慢してくれ。

 おもちはリュックサックの中で居心地よさそうにしていた。

 よし、これで大丈夫。

 俺たちは電車にのって、電気屋へ。

 秋葉原のヨドバシカメラへレッツゴー。


 だいふくは電車にのるときは抱っこしておいた。

 まあけっこういろいろ見られたけど、大丈夫だろう。

 

 ヨドバシカメラに着く。


「えーっと、カメラ売り場は……っと」


 ダンジョン配信者向けに、カメラ売り場が拡張されていた。

 ダンジョン配信者! はじめよう! とデカデカとポップが踊ってる。

 ダンジョン配信者向けには、普通とはちょっと違ったカメラが売られている。

 通称、ダンカメ。

 探索者たちは、普段戦わなければいけないから、両手がふさがる。

 そのため、自動追尾ドローン型のカメラがよく売れていた。

 しかも、最近のダンカメはさらにハイテクだ。


 ただの自動追尾カメラとしての機能だけでなく、自衛手段も持っている。

 もしモンスターがダンカメに攻撃してきても、装甲ドローンだからそう簡単には壊れない。

 さらにはタレットもついているから、後ろから援護射撃をしてくれる。

 つまり、アシストドローンでもあった。

 まあ、そんな高機能なやつはめちゃくちゃ高くて買えないけどな。


「とりあえず、ダンカメは安いのでいいか。あとは、いろいろ他にも機材を揃えよう」


 ダンカメは、その場に置いて固定カメラとしてもつかえる。

 だから、家で撮る場合とかもダンカメで大丈夫だ。

 しかもダンカメは自動でカメラマン機能がついている。

 ちょうどいい感じに被写体を撮り続けてくれるのだ。

 最近の技術はすごいなぁ……。


 というのも、ダンジョンがこの世界に現れてからは、電化製品なんかも、めまぐるしい発展を遂げた。

 ダンジョンから得られる資源は、それほど人類に大きな影響を与えたのだ。

 俺は安めのダンカメを買う。

 薄給のサラリーマンにはこれで十分だ。

 つーかこれが限界。

 まあ、そこまで本格的じゃなくても、最初だから大丈夫だろう。

 もしなにかの間違いで動画がバズったりして、収益が出れば、また買い替えればいいだけの話だ。


 とりあえず、帰り道で、ダンカメを使ってみることにする。

 家まで帰るあいだ、ダンカメを追尾させてみる。

 電車にのって、最寄り駅で降りる。

 そっからは、だいふくの散歩風景をとることにする。

 俺は近所の河原のほうに歩いていった。

 ちょっと遠回りになるけど、堤防のほうを歩いて帰ろう。


 ここなら人通りも少ないし、大丈夫だろう。

 俺はリュックサックの中から、おもちを出した。

 おもちとだいふくを、並んで歩かせる。

 やっぱりだいふくも犬だから、散歩は必要だよな。

 二匹とも、うれしそうに駆け回る。


「おいおい、あんまりはしゃぎすぎるなよ」

「きゅぴー!」「がうがうー!」


 二匹とも賢いから、そう遠くまで離れてはいかない。

 リードなんかつけなくても大丈夫だ。

 しばらく歩いていると、やっぱりすれ違う人にけっこう見られる。

 まあ、ダンジョンの外でスライムがいたら、びっくりするよな。

 ジョギングの人とかに、チラチラ見られる。

 チラチラ見てただろ(因縁)。

 嘘つけ絶対見てたゾ。


 しばらく歩いていると、前から女性がやってきた。

 女性は犬を連れていた。

 散歩中だろうか。

 綺麗な女性だ。

 黒髪の、清楚な女性だ。

 女性と目が合った。

 俺も犬を散歩してると思ったのか、声をかけてくる。

 スライムも連れていて、珍しいと思ったのかな。


「こんにちは。お散歩ですか?」

「はい、こんにちは。カメラを買ったので、それの試し撮りも兼ねて」

「へー。いいですね。でも、珍しいですね? スライムと……ワンチャンですか?」

「ああ、こいつも一応モンスターで。まあ、犬みたいなもんですけど。たぶん狼種の子供とかですかね」

「へー可愛いですねぇ」

「どうやって手なずけたんですか?」

「それが、こいつがけがをしていたところを、治したら懐かれて……」

「へぇ。優しいんですね」


 女性は気さくに話しかけてきてくれた。

 普段あまり女性と話すきかいもないので、緊張する。

 しかもキレイな人だから余計にな。

 女性はしゃがみこんで、だいふくを撫でている。

 おもちは、女性の犬に興味深々なようで、スキンシップをしている。


「お名前、なんていうんですか?」

「つ、辻風ハヤテです……!」

「あ……じゃなくて、ワンチャンとスライムちゃんのほう」

「あ……おもちとだいふくです」

「ふふ……可愛いですね。私は、天音サリナっていいます。こっちはマロン」

「あ、どうも」


 恥ずかしい間違いをしてしまった。

 だけど、そのおかげか、女性の名前ゲットだ。


「そのカメラって、動画をとって、アップロードしたりするんですか? やっぱり」

「ええまあ、そのつもりです。一応。ペット動画っていうんですかね。まだカメラ買っただけですけどね」

「そうなんですね。最近はやってますもんね、ダンチューバーとか」

「ええ」

「私も、こう見えて一応ダンチューバーやってるんですよ」

「ええ、そうなんですか……! じゃあ、今度いろいろ教えてくださいよ!」


 俺は、思い切ってそんなことを言ってみた。

 まあ、ナンパというやつだ。

 普段は全然そんなことはしないんだけどな。

 あまりにもキレイな女性だったし、この機会にお近づきになれるかなと……。

 さすがに調子にのったかな?

 でも、俺だってそのくらい……。

 この歳で彼女いたことないし、そろそろそういう展開もあってもいいじゃない。

 女性は、しばし戸惑い、逡巡したあと。

 笑顔で答えた。


「ええ、いいですよ。じゃあ、もしよかったら連絡先交換します? ペット友達ってことで」

「……!? ぜ、ぜひ! 交換しましょう!」

「ふふ、よろしくお願いしますね」


 やったあああああああああああああああああ!!!!

 俺にもついに春が来るんだろうか。

 まあ、まだ気は早いけど。

 とりあえず、綺麗な女性の連絡先ゲットだぜえええええ!!!!

 これはおもちとだいふくに感謝だな。

 二匹は何が起こっているのかよくわかっていないようすだけど、とりあえず俺がうれしそうにしているのをみて、うれしそうにしている。


「あの、もしよかったら、写真とってもいいですか? スライムちゃんとワンチャンの。うちのマロンもいっしょに」

「ええ。もちろんいいですよ」

「えへへ。やったぁ」


 サリナさんは写真を何枚かとった。

 かわいい。


「これ、SNSにあげたりしてもいいですか?」

「もちろんです。大丈夫ですよ」

「やった。宣伝しときますねー」

「あ、ありがとうございます」

「また、動画のことでなにかわからないこととかあったら、いつでも頼ってくださいね」

「ありがとうございます」


 これは、頼もしい友達ができたな。


「それじゃあ、また」

「はい、また」


 俺たちはサリナさんと別れた。

 はぁ……キレイな人だったなぁ。





 ハヤテは知らなかった。

 この天音サリナという人物が、有名ダンチューバーのさりーにゃだということに……。

 さりーにゃはSNSに画像を以下のように投稿した。


『今日、お散歩ちゅうに珍しいペットを飼っている方とお友達になりました! スライムのおもちちゃんと子狼のだいふくちゃんです! 怪我をしているところを助けたら懐かれたそうです! 飼い主さんはペット配信をする予定らしいので、ぜひ見にいってみてください!』


 そのツイートは、またたく間に拡散された。

 リツイートは1時間で2000を超えた。


『かわいい!』

『なにこれ!』

『え!?ほんとにモンスター飼ってるの!?』

『モンスター飼ってる人初めてみた』

『子供狼なんか初めて見た』

『俺もみたい!』

『配信絶対見なきゃ!』

『飼い主さんやさしい!』

『二匹仲良しでかわいい!』

『モンスター同士で仲良くなるんだ!』

『すごい!懐いてる!』


 さまざまなコメントが届いた。

 おもちとだいふくは、ハヤテの知らないところで、徐々にバズっていった。

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