第2話 俺に、助けてほしいってことなのか……?


「もふもふ、捕まえたぞ……!」

「ぴきゅー!!!!」


 俺はおそるおそるもふもふに近づいた。

 するとその毛玉は、ずるりと滑り落ちた。

 まるで、カツラがとれるみたいに。


「え……?」


 そして、毛玉だと思ってた中から現れたのは、一匹のスライムだった。


「す、スライム……!?」

「ぴきゅー!」


 スライムは飛び跳ねて、俺になにかを訴えているようだった。

 なにが言いたいんだ?

 スライムは俺の視線を、落ちた毛玉のほうに誘導する。


「え……? 毛……?」


 地面に落ちているカツラ、もとい毛玉のことをよく見てみる。

 なんとそのもふもふは、一匹の子犬だった。

 あ、スライムが子犬を背負っていたってこと……?


「こ、この子犬がどうかしたのか……?」

「ぴきゅ! ぴきゅいー!」


 スライムは俺になにかを必死に訴える。

 俺は地面に寝転んだまま動かない子犬をしらべる。

 すると、子犬は動かないのではなく、動けないでいるのだとわかった。


「あ……! こいつ、怪我をしている……!」

「ぴきゅ! ぴきゅい!」


 子犬のからだには傷があり、どうやら怪我をしているようなのだ。

 もしかしてこのスライムは、それを伝えたかったのか?


「俺に、助けてほしいってことか……?」

「きゅい、きゅいー!」


 どうやらそういうことらしい。

 おそらく、ダンジョンの中で俺が女性をヒールしているのを見ていたのだろう。

 それで、俺にヒールが使えることを知り、ここまで追いかけてきたのだろうな。

 スライムは、なんとしてもこの子犬を救ってやりたかったんだな。

 スライムと子犬、友達なのかな……?

 とにかく、子犬はこのままだと死んでしまう。

 俺ってこういうの、見過ごせないんだよな。


「よしわかった、俺に任せろ……!」


 俺は子犬にヒールをつかった。


「えいえいえい! ヒール!」


 すると、みるみるうちに子犬は元気になっていった。


「よし、これで大丈夫だ」

「きゅい、きゅいー!」


 まるでスライムは、「ありがとう」と礼を言っているようだった。

 ま、とりあえず助かってよかったよ、俺も。


 しばらくそれからして……。

 

 スライムと子犬は、俺の部屋の中でたわむれはじめた。

 なんだこいつら……帰らないのか?

 俺に懐いているようで、二匹とも俺にすりすりしてきたりする。


「はは……なんか可愛い……」


 こう、可愛い生き物どうしがいちゃいちゃしている様子はたまらんですな。

 子犬と猫の動画とか、俺も好きだし。

 子犬とスライムっていう組み合わせが新鮮だ。

 ていうか、この子犬、ダンジョンから出てきたから、こいつもモンスターってことだよな。

 子犬っていってるけど、たぶん狼系のモンスターの子供とかだろうか。

 なんでこの二匹が仲良しなのかも謎だ。

 まあ、とりあえずなんでもいいけど。


「こういうときって、どうすればいいんだ……? 警察……?」


 一応、街でモンスターをみかけた場合は、警察を呼ぶのが義務になっている。

 こいつらは危険ではなさそうだけど、一応連絡しておくか。

 電話してしばらくすると、警察がうちにきた。

 警察官は、若い優しそうなお姉さんだった。


「え、これってスライムと狼の子供ですか……!? 可愛いですねー」

「これ、どうすればいいんですかね……」

「まあ、一応この書類にサインしてもらって……あとはまあ、好きにしてもらっていいですよ」

「そんな好きにって言われても……」

「このまま飼ったらいいじゃないですか。可愛いんだし、懐いてますしね」


 モンスターって、飼えるのか……?

 

「そ、そう言われましても……」

「モンスターが人間に懐くなんて、きいたことないですよ? あ、SNSに動画とかあげたら、バズるんじゃないですかね……?」

「動画……ですか……」


 たしかに、そんなことすれば話題になるかもしれないな。

 2匹が戯れるようすは、俺からみてもかわいいし。


「エサ代とかもかかるでしょうし、動画で稼ぐとかってすればいいんじゃないですかね? そうすれば、家にいながら稼げてうっはうはですよ? 今の時代、ダンジョン配信者とかも珍しくないですしね」

「はぁ、まあそうですねぇ……」


 たしかに、そうなったらうれしいな。

 今の仕事、めちゃくちゃやめたいもんな。

 うんよし、あとで動画とろう。


「じゃあとりあえず私がファン一号ってことで。動画、楽しみにしてますね?」

「あ、はい。どうも」


 警察官の人はそう言って、笑顔で帰っていった。

 とりあえず、モンスターを飼うことに問題はなさそうだ。

 いいのか……。

 さてと、警察官が帰って、また俺はスライムともふもふと、部屋にとりのこされた。


「とりあえず、名前を決めないとな……」


 俺はスライムに、おもちと名付けた。

 そして子犬のほうにはだいふくだ。


「よし、おもち! だいふく! これからよろしくな!」

「きゅぴー!」「ばうわう!」


 二匹とも飛びはねてよろこんだ。

 どうやら気に入ってくれたみたいだ。

 

「そういえば、お前らってなに食わせればいいんだ? エサっていってもな……」


 モンスターを飼っている人なんかいないから、モンスターの餌みたいなものが売っているわけでもない。


「とりあえず、ググるか……」


 インターネットで検索してみても、ろくな情報にヒットせず。

 だいふくのほうはペットショップにいって、ドッグフードを買えばいいだろう。

 それか、肉とか食わせればいいだろう。

 だけど、スライムってなに食うんだ……?

 スライムって水みたいだから、とりあえず水をやってみよう。


「水、飲むかな……?」


 俺はコップに入れた水道水をおもちに渡した。

 すると、おもちはごくごくそれを飲みほした。


「きゅぴ、きゅぴ」

「おお……!」


 すると、おもちの身体は少し大きくなっていた。


「もしかしてスライムって、水で大きくなるのか……!?」


 これは新たな知見だな。

 そして、俺は冷蔵庫から肉を出してきて、焼く。

 肉を皿にのせ、だいふくのもとへ差し出す。


「ほれだいふく、肉だぞ。食うかな……?」


 すると、だいふくはおいしそうに肉を食べだした。


「がうがう!」

「おお! よかった!」


 子犬といっても、やはりモンスターだ。

 ふつうの犬とは違うらしい。

 肉をがつがつ食って、一気にたいらげてしまう。

 だいふくが肉を食っているようすをみて、おもちもなにか欲しそうな顔を向けてくる。


「なんだ。お前も肉ほしいのか?」


 俺はおもちにも肉をやってみることにした。

 スライムって、肉も食うのか?

 すると、おもちは肉をあっという間に体に吸収した。

 スライムの肉体に、肉が吸い込まれていって、溶けて消えた。


「おお、スライムも肉くうんだな……」


 おもちは満足そうな顔をしていた。

 スライムにも味がわかるらしい。

 

「これ、面白いな……。動画にしたらマジでバズるかも……?」


 こんど、動画を撮影する機材を買ってこよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る