第32話 凍てついた森から

 もう見慣れた雪に、灰色の森。それらを見ながら、ふと南に行こうと思った。

 凍った森はとても静かだ。


 こうして誰もいない森を眺めていると、世界のはじまりを思い出す。

 世界に魔法が生まれた日、新しいエネルギーの発見に地球は歓喜につつまれた。

 それも何千年も前の話だ。


 動物は怪物へ進化し、人々は科学と魔法が入り混じったゲームのような奇妙な世界で生きるようになった。

 集落をつくったり、戦わなければ魔物に街を破壊されたり。


 そしてその時、僕は森の近くに住むことを選んだ。

 魔法に体が慣れるにともなって、耳はとがり一緒に暮らしていた人たちの顔立ちが似通ってきた。まるで物語に出てくるエルフのようだった。


 当時のことを覚えているのはもうほとんどいないだろう。集落の破壊と再生が繰り返すうちに歴史は消えて行った。

 森に来ていた行商人が言うには、僕たちの森が凍ってしまったのもそのせいだという。


 魔法も結局エネルギーでしかなかったのだ。

 資源が枯渇したのと同じように、世界を満たした新エネルギーも、生み出されるよりも消費の方が大きくなった。

 こんな世界になって、エルフのほとんどが森を捨て、残った仲間も何年か前に死んでしまった。そして、僕はようやく森を出ることにした。


 ここはサム。だから南に行こうと思う。

 騒がしい南の街へ。


 このあたりは一年を冬に覆われたけれど、南は嵐が多くなったという。世界はどんな風に変わったのだろうか。

 世界が終わってしまうと人々は不安がっているらしい。

 でも、それでも旅はわくわくする。

 それに僕は、この世界が終わらないことを知っている。見届けることができるかは分からないが、せめてそれまでは楽しもうと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る