第30話 魔法少女組織

 今日は大阪から北海道まで飛んだ。


 最後に家に帰れたのはもう数か月も前のことだ。


 怪獣が出現したと聞けば、魔法で空を飛び飛行機よりも早く日本を行き来する。


 日本が怪獣災害国家と揶揄されるようになってもう十年は過ぎただろうか。私が最初に魔法少女と呼ばれ出したのは十二才の頃。もう立派な大人と言える年なのに、どうして職歴も学歴も真っ白にして怪獣と戦う毎日を送るはめになったのか。


 それは、父母の夢のためである。


 日本に突如として現れた怪獣、それに対抗するために力を手に入れた人類が魔法少女――ということになっている。


 夢のために手段を選ぶな――母の言葉である。


 夢と希望を胸に努力しなさい――父の言葉だ。


 そんな夢におぼれた彼らから生まれたのが私、魔法少女だ。幼い頃にアニメで見た戦う少女たち。確かに憧れていた。


 だが彼らにはしっかりとハッピーエンドがあった。


 私にはどうだろうか。


 怪獣が大好きな母は、ついに自動で動物の遺伝子情報を操作し日本を拠点として怪獣を世界にばらまいた。


 父は変身ライダーが好きでついには『魔法』としか思えない技術を開発した。


 私は父の『魔法』により母の生み出した怪獣を分解する日々を送っている。


 他の人にこんないつ終わるか分からない夢の残滓の後始末をさせることはできない。だが、大人になった私に世間は不躾な疑問をぶつけた。


「大人になっても魔法の力は衰えることはないのか?」


 彼らは魔法を科学に変換することができなかったらしい。魔法の力が突然変異で得たものではなく、変身アイテムに依存しているなら後任の魔法少女を見つけるべきでは、と討論をはじめたのだ。


 義務感と責任感で、みんなのために棒に振った私の未来がこれだ。


 母に怪獣を作らないでくれ、と言った。


「人工知能に管理も全部任せているから、最初の怪獣以外は私は関与してないわ」


 私は父に相談した。

 魔法少女の会社を作ることはできないだろうか、と。


 父は面白がってくれた。


 魔法少女にはマスコットが必要で、そして夢の力が必要だ。

 わくわくと瞳を輝かせる父に、正直ほっとした。


 翌日、父に連れられて大きなビルに向かうと、そこにはたくさんのカメラマンと記者たちが待ち構えていた。


「後任の魔法少女を募集するというのは本当ですか!」


「現在、怪獣災害に対しては魔法以外に強力な対抗手段がないことをどのようにお考えですか!」


 父はにっこりと笑った。私の横に父が立ち『魔法少女の親』として保護者の役割を果たしてくれることは多かった。今回も記者やカメラマンの目には止まっていないようだ。


「スポンサーもゲットしたし、衣装に広告を張り付ければ宣伝費もゲットできるぞ!」


 私は一番手前のカメラを見た。


「後任の魔法少女を募集し、魔法少女の組織化をはかります。我々の目標は怪獣を生み出している黒幕を倒し平和を手にすることです!」


 一気に盛り上がる会場はカメラのフラッシュでチカチカする。私は目をしばしばさせた。


 本来であればただの妄言で終わったはずの父母の夢。彼らが優秀だったばかりに私も夢におぼれてしまった。


 今日だって『普通』はこんなにすぐ話は進まないだろう。だが、私の周囲は普通じゃない。


 彼らの夢を拾い集めること――それは私にしかできないことだ。

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