第21話 クリスマス妖精の補充
「こういうセキュリティがあるマンションはな、別の部屋への宅配をよそおうか、もしくはこうじゃ」
ほっほっほー、と笑う赤い服を着る自称サンタクロースは、マンションの入口にあるドアの隙間にドル札を遠した。動くものーードル札に反応した自動ドアがロックを解除し、扉を開いた。
「空き巣じゃねぇかーーーー!!!!!!」
サンタの後ろで見守っていた俺は、思わず叫んでしまった。
「だまれ、新入り!」
そして最大で腰の高さまでしかない老人姿の妖精トムテが、俺の袖をひっぱって頭をポカリと叩く。次々と靴までの大きさしかないトムテたちも靴をボカボカと蹴り始めた。
「このじじぃどもめ……」
俺のつぶやきをよそに、ほっほーと笑いながらサンタがマンションへ侵入した。大きめのトムテたちに逃げないように袖をひかれながらマンションの中へ入ってしまった。
☆
俺はネットでバイトを探していた。そのせいかSNSで表示されていた『短期で高収入!』という売り文句の広告に飛びついた。
年末も近いことから日払いバイトもそこそこ見つかるが、この金額では足りない。ウーバーやって足りない分を補填するか…?
そんな中で、その単語はとても魅力的だった。
実は犯罪の片棒を担いでいました、という『闇バイト』に巻き込まれるかもしれないが、俺にはどうしても今すぐ大金が欲しかった。
いくつか質問があり、それにこたえていく。
「なるべく早く働きたいです」
「ほっほー! 人手不足なので、こちらも有難いです。さっそく面接の日時を決めましょう! ご希望の日時をお選びください」
ラインを通じて、担当者とやり取りをした。謎の単語も出てこないし、仕事内容は『マンションの警備』だという。まともな会社の問い合わせ窓口が今時ラインだけってことがあるわけがないだろ!
担当者もやたら優しい……これはやはり噂に聞く闇バイトだろう。やたら「ほっほー」というメッセージを送ってくるのが気になるが、何かの隠語だろうか?
連絡を取るのをやめろと俺の理性がささやくが、もう一人の俺が「バレなきゃいいんじゃない?」とつぶやく。
捕まることもあるし、抜け出せなくなるということも理解している。だが、今の俺に失うものがあるだろうか……。失敗してもただ捕まる”だけ”――。
俺は寒さに震えながら指定された雑居ビルに向かった。
この道はあまり通らなかったけれど、そのビルの外壁は赤と白に塗りたくられていた。壁全体を使ってシンプルな絵が描かれていた。
「さ、サンタクロース!?」
いやいやいやいや?!?! 目立ちすぎるだろ!!!
普通の企業にしたってなんなんだよ!!
「「「「お待ちしておりました」」」」
今からでもバックレようかと思っていると、ビルからわらわらと人が流れでてきた。
背丈は俺の腰までしかないじいさんたちは、クリスマスの飾りで見るサンタの人形のような姿をしていた。わぁわぁと押されながらビルに入る。
面接官は改めて、サンタクロースの服装をしていた。
「ほっほー! なかなか面接に来てくれる子が少なくて困っていたんじゃ」
「え、へへ……。いや、あの、どうも……」
あの「ほっほー」は隠語やふくろうのモノマネじゃなくてサンタクロースの笑い声ってことか!?
「ほっほっほー、子供は好き?」
「どっちかっていうと、好き?ですかね」
「今の子ははっきりしないなー。でも、嫌いじゃないってことでね、合格じゃ! ほっほっほ。あ、わしサンタクロース、握手しとく?」
そして、面接に合格した俺は、制服だといわれサンタ帽子をかぶらされた。
自称サンタは、俺の肩までしかなかった。サンタはもっと大柄かと思っていた、少し子供の頃を思い出してしまう。
サンタが本当にいたとして、俺にとってのサンタクロースは父母の似合わない安っぽいコスプレのサンタだ。
「うわ!? なんだアレ?」
「あぁ、妖精だね」
面接部屋を行きかう手のひらサイズの妖精たち。彼らのおかげでここが普通じゃないことを理解した。妖精たちは大きさはバラバラだったが、姿は似通っている。
さすがに、手のひらサイズの人間はいないよな……。
「帽子をかぶるだけなのに遅い」と足をボカスカ殴ってくる彼らの攻撃は地味に痛い。
「なんだこのじじぃ」
「トムテ!」
「は?」
「トムテ!!」
彼らはトムテというらしい。
ファミリーに人気だというマンションに向かう。ファンタジーっぽいとはいえ、闇バイト系の可能性もまだあるだろう。その事をサンタに聞くと「おかしな事を聞くね」とまた、ほっほっほと朗らかに答えた。
こうして俺は、サンタクロースや妖精じじぃたちに囲まれてマンションに侵入することになってしまった。サンタのじじぃが疲れたというのでエレベーターに乗る。トナカイにのれや!
その間に「トムテ」について調べる。サンタのお手伝い妖精らしい。
「サンタさん、あの、俺は何の仕事をすれば?」
「トムテも少子高齢化でねぇ。若手もたかが迷信で終わりたくないとか言うんだよ」
「現場仕事って感じですか?」
「だから、補充しようと思って」
俺は、いつしかサンタを”見上げ”ていた。
「最近のバイトは、一度始めたら抜け出せないんだってね、ほほほ」
声や表情は先ほどまでと変わらないはずなのに、どうしてこんなにサンタを不気味に思うんだろう。エレベーターの鏡に映っているトムテたち、その姿は似通っていて、俺の姿は見つからなかった。
ぼう然とする俺をよそにエレベーターの扉が開いた。
「さ、良い子を探しにいくかの、ほっほっほ」
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