第22話 雨よふれふれ、こんとふれ
ぽたぽたと瞳から涙がこぼれる。
突如として、世界中のありとあらゆる神を模した像の目から涙がこぼれるようになってからもう数か月が経っていた。
私がビルの清掃員として雇われてから起き始めたこの事象のせいで、仕事は増えるばかりだ。
サモトラケのニケ、翼が生えた首のない女神の像。勝利の女神として有名なこの像のレプリカは、このビルの全ての階に設置されている。
ビルのオーナーの趣味だ。
私はどこからかぽたりぽたりと、ニケの足元に落ちる涙を拭き取る。
「神さまなんだから仕事を増やさないで欲しいよね」
「ねぇー」
私と同じパート連中はそんなことを毎日口にする。
今の世界では仏像も、ギリシャの英雄も、自由の女神だって、神とされるものを模したものは像だって、絵ですら涙を流す。
世界は何も変わらない。原因が分からないその現象が増えただけだ。そして仕事が増えただけ。
世間はずっと、呪いだとか何者かの組織的ないたずらだとか、そんな議論を繰り広げている。
神さまがこの世界を嘆いているだとか、何か不幸が起きる前触れだとか。
そんなことはどうでも良い。
どうでも良いのだが、確かに空はずっと曇っている。気づいた頃から、ずっとさめざめと雨が降っている。ずっと。
そうしてまず小さな島が地図から消えたそうだ。その日もニケは泣いていた。
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