第5話

ルーナにとって、町や国に拠点を置くのはただその近くで活動しやすいようにする為だけに過ぎない。だから余程のメリットがない限りそこに長居する気はない。

私は始まりの草原を通りながら次はどこへ行こうかと行くあてを特に考えずに、行きたい方へ進んでいた。途中、オーガ達を殲滅し新人冒険者達を亡き者にした場所を通り過ぎた。

私は1度立ち止まり、その方向へ深く頭を下げた。冒険者になったら命を落とす覚悟をするも同然。そうギルドマスターの言葉がよぎった。

確かにその通りだ。だが、生き物の命は1つ。それが尽きたら死ぬのだ。1人ひとつの命をそんな簡単に考えるのかと思うが、そうでも考えていないとギルドマスターの立ち位置にはいれないのだろう。

私は顔を上げ静かにその場を後にした。何故か流れる風が温かい気がした。

私は始まりの草原の分かれ道まで歩き着いた。

「轟く荒野」と「静かなる海辺」

私はほぼ悩むことなく「静かなる海辺」の方へと向かった。静かな方へ行きたかったのだろう。

そういえば牛の様な魔獣や、好戦的なスライムの様な魔物、等この辺にはいるが見かけない事に不安を覚えた。

「静かなる海辺」への道中、海風が吹き磯の匂いがした。そして道の真ん中でゲートが開いた。またか…と同時に私は剣を構えた。

『そう身構えるな、お前にプレゼントだ。』

「また合成魔物でも出すのか?」

『さすがだな。己を鍛えたいのだろう?』

「…まさか始まりの草原の魔物達か?」

『あそこの魔物、魔獣は弱い。今のお前でも十分だろ。』

「生態系のバランスを崩す行為だぞ!」

『そんなの私には関係ない。私はただ結果を知れれば手段は問わない。健闘を祈る。』

そしてまたゲートへと姿を消した。私はダークマスターと入れ替わるように出てきた、巨大な黒いスライムと向き合った。

黒いスライムはポヨンと大きく飛び跳ね、私を押し潰そうとしてきた。私は素早く後ろに下がり回避した。黒いスライムが着地した際に自らの体液が飛び散り、周りの草木が腐った。

(腐敗性があるのか…厄介な…)

私は主に剣術で戦う。不利な相手であった。だがだからといって逃げる訳では無い。私は左手から赤い魔法陣を展開し、炎魔法を飛ばした。

生き物が焼ける臭いがしたが、黒いスライムにとっては浅い傷だったらしい。

何事も無かったかのように口の様な形が急に現れ自らの体液を飛ばしてきた。私は急いで身をひるがえし回避した。微かに触れた服の袖が溶けたのを見てゾッとした。

私は再び左手に今度は黄色い魔法を展開し、雷魔法を飛ばした。黒いスライムは大きく震え、不自然な震えをしていた。麻痺が付属されている雷魔法は十分な働きをしてくれた。それに先程よりダメージは入っているようだ。

私はこの合成魔物と長期戦をする気はなく、両手で黄色い魔法陣を展開し、数本の雷を黒いスライムに向けて放った。

黒いスライムは焦げた匂いと同時に大きくブルブルと身震いをしたあと動かなくなり消えていった。

(消えた?スライムとはいえ多少形は残るはずなのに…アイツは何がしたいんだ…)

私はダークマスターの意図が分からずに考え込んだが、黒いスライムを倒せたことに安堵を覚えていた。

そして久しぶりに魔法を使用した事で、精神的疲労がどっと押し寄せた。あまり得意ではない魔法という分野をそれなりに使うのは疲れるものだ。

私は近くに大きな木があった為、そこまで歩き根元に座り込み今日はここで野宿しようと決めた。流れる風は先程と同じく磯の匂いを纏っており、心地よい。

心地よい風と疲労で私は夕日が登る頃まで眠っていた。

目を覚ました私は小さな鞄に入れていたビスケットを数枚食べ腹を満たした。木に登りたまたま人ひとりが寝れる場所があった為、そこで寝袋を使用し再び眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る