第3話

無防備な私を死霊は嘲笑うような声でゆっくり殺そうとしているのだろう。そんなことをしている暇があるのか疑問だが。

私は両手を顔の前で重ね、広げると同時に大きな雄叫びを上げた。私を中心に草木が大きく揺れ、死霊も数歩後ずさった。

私の腕は真っ黒い毛皮を纏い、赤い爪を生やしていた。足も同様に真っ黒い毛皮と赤い爪が衣類を破り見えていた。私の体付きは元々細身ではあるが必要な筋肉は着いていた。そのふた周りと言っていいくらいガタイのいい筋肉で隆起していた。尾てい骨の辺りには真っ黒い尻尾が1本生えていた。顔つきも狼のような尖った耳や鋭い牙が隠れきれずに現れていた。

私は人狼の力を持っている。人狼だけでは無いが、今はこれで十分だ。

「反撃だ。」

その一言と同時に私は思いっきり地面を蹴り死霊に向かって飛んだ。地面は思いっきり抉れていた。

死霊は向かってきた私を切り裂こうと右手の鎌を振り下ろしたがそれは空を切った。

「こっちだ。」

そういい背後に居た私は赤い爪で鎌を持っている腕を切り落とした。

「ォォォォォオ!!!」

痛みで叫ぶ死霊を横目に私は木々の中に身を隠した。そして死霊は山犬の嗅覚を持っている。隠れても無駄だとばかりに、左手の爪を茂みに振り下ろした。が、そこに私はいない。あるのはただ数滴の私の血液。

「消えろ。」

私はその上から両腕をクロスするように死霊の首を刈り取った。声を上げること無く死霊は形を崩し、ただの死体の山となった。

私はただ冷たい目で見ていた。そしてゲートが開き拍手と同時に現れた人間にも同じ視線を向けた。

『こんなんじゃ物足りなかったかな?』

「失せろ。」

『まぁまぁ?たまにはその力を使わないとね、ルーナ?』

「…。」

『近々魔獣人の集まりがある。来るかい?』

「ふざけてるのか?」

『君の意見なら簡単に通せる力を持っているのに勿体ない。』

「血祭りにしてやろうか」

『レオも来ると言うのに。』

その一言に私の体はビクッと反応した。

『もう一度聞こう。君も来るかい?』

「…私は行かない。」

『そうか、残念だ。』

そう言い残してダークマスターは姿を消した。私は魔獣化を解いた。そして口から込み上げる大量の血液を抑えきれず吐血した。

魔獣化の代償は大きいがその分得られる力は壮大な物。私は極力使いたくない。だから日々鍛錬を怠らないでいたつもりだ。だが…

「守れなかった…」

力不足を感じ、口元に付いている血液を拭き、ギルドへ報告の為に帰還した。

報告後自宅に戻り、すぐに入浴を済ませ、ベッドに入り私は泥のように眠りについた。

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