第2話
そもそもオーガがこの新人たちの通り道である草原に出ていること自体少し異例である。
オーガの暮らす森の奥で何か異変があるのかと少し疑問を持ちながら、私はギルドを後にし、市場で手軽に食べられる果物を1つ買った。
そして町を出るとさっき買った果物を食べながら、草原に向かった。
草原へ着く時には果物は食べ終わっており、お腹は満たされていた。ここは始まりの草原。新人冒険者や商人達が多く通る道だ。それは危険な魔物や魔獣が少ないからだ。狩りに出たとしても、冒険者ならしっかり連携を取っていれば倒せるレベルだし、商人達もよっぽどの自信家ではない限り護衛を雇っているはず。だからこその始まりの草原。
そこにオーガという大きな体を持った魔物が居ると新人や商人達は手も足も出せない。だからこそ私たち雇われの剣士等が居るというわけなんだが…
そうこうしていると、少し先の方に数名でチームを組んでいるのだろう新人冒険者たちの姿を見つけた。
相手はゴブリン。ゴブリン程度なら新人冒険者の装備でも倒せるレベルだろう。案の定無事大きな怪我もなく倒せていた。ゴブリンを倒せて少し安心し、座り込んでしまっている子もいる。
微笑ましいがあくまでここは町や国ではない。安心し過ぎては万が一命が危ないので声をかけに近づいた。
「ゴブリンの狩猟お疲れ様だ。だがあまり気を抜きすぎるなよ?いつ次の敵が出てくるかわからないぞ?」
「あ、最近町に来てくれた剣士さんですね!かっこいい!」
「良いからお前は立てよ。忠告聞いてたのか?本当すみません…」
「いや、気にするな。初めのうちは1つの戦闘でもかなりの集中力を使うからな。」
「そうなんですよ〜ゴブリンも簡易の弓矢とか使って遠方からも攻撃してきますし〜」
(ゴブリンが弓矢?珍しいな…)
「ほら少し回復薬を分けてあげよう。少し休んだら無理せず、1度体勢を整えるのに町に戻るんだぞ?」
「はい!剣士さんありがとうございます!」
「何から何まですみません。ありがとうございます。」
「…どうも」
新人冒険者達は木陰で少し休んでから戻るようだった。私はもう少し奥のほうへと行き、オーガを探した。
少し木々が茂った方へ行くと、オーガが何かを囲むように唸り声を上げていた。身を潜めその正体を確認するとオーガが数匹の山犬の死体を囲んでいた。
山犬がオーガに負けた?山犬はオーガよりは体は小さいが、オーガに負けることなんてほとんどないはずだ。しかも数匹ということはオーガと山犬の群れの戦闘があり、オーガが勝ったという事だ。
私は息を飲んだ。まさか生態環境がこんなに…いや誰かがオーガを使役している?そんな色々考えているとオーガ達は山犬の死体を貪り始めた。オーガは喰らったものの能力を得る。
私は急いで剣を構え、一気に近づき1匹のオーガの首筋を背後から切り捨てた。首を斜めから切り落とされたオーガはそのまま血飛沫をあげ、倒れた。
他のオーガ達は口から山犬の頭や足を垂らしながら私の方を見つめていた。
そしてヨダレを飛ばしながらこちらに襲いかかってきた。大きな棍棒を叩き潰す為に振り下ろした。
私は素早く避け、その腕を切り飛ばした。
その後ろから大きな腕が私を掴もうと伸びてきた為、跳んで避けた。空振りした腕はそのまま体勢を大きく崩し、それを見逃すはずもなく首筋に向かって大きく剣を振りかざし、また2体目も大きく血飛沫を飛ばしながら崩れ落ちた。
着地と同時に左右から棍棒が向かってきた。
あまり跳んで回避するのは他のオーガに掴まるリスクが高くなる。なら1度と、両足に力を入れ、片手にも剣を持ち受け止めた。
さすがにオーガの一撃、しかも左右からの二撃は体が潰れるかと思う。が、そんなに私はヤワじゃない。そもそもそんなの想定内だ。
私は左右の棍棒を思いっきり弾き飛ばし、ポケットに1つ用意していた、閃光弾を中央に向けて撃った。オーガ達は視界が一気に明るくなったせいで視界を一時的にだが潰されている。
私はそれを逃さず、一気にオーガたちの首筋や胴体を切り捨て、一瞬でオーガの群れは殲滅した。
私は依頼分のオーガは倒したが、何か不安が拭いきれなかった。オーガ達が山犬に勝つなどほぼ有り得ない。山犬の死体を見たがオーガに襲われた傷以外特に変わった様子はなかった。
私が疑問を覚えていると背後から気配を覚え剣を身構えた。出てきたのは
「すみません!剣士さん私達です!!!」
「あぁ。申し訳ない。」
「それにしてもオーガがほぼ真っ二つじゃねぇか…すげぇな…」
「これ剣士さんがやった…というかその返り血ということはそういうことですね…w」
「すまんな、流石に誰か来るとは想定しなかったから、返り血の有無なんて考えてなかった。」
「…。」
「剣士さん力持ちなんですね!」
「私はルーナだ。そう呼んでおくれ。」
「ルーナさん!いい名前ですね!私は…」
その時オーガの死体が微かに動き始め、山犬の死体と一緒に混ざるように歪んだ形をし始めた。
私は両手に剣を構え、この冒険者達も各々手に武器を構えた。
背後にゲートが開き1人の人間が現れた。
『相変わらず魔物狩りしているんだな、ルーナ』
「お前に関係ないだろ。」
『お前はこちらの者だぞ?』
「私はお前らとは違う。」
『まぁいい。その新人どもを守りながらコイツを倒せるか見せてもらおう。』
「お前は逃げるのか!ダークマスター!」
『逃げるのでは無い。実験だ。』
そう言い残し、ダークマスターはゲートへと帰って行った。そしてオーガと山犬の死体は混ざり合い、大きな死霊へと変貌した。
「オオオオオォ…」
死霊は右手には大きな鎌、左手には鋭い爪の手、大きく不気味に赤く光る目でこちらを見つめていた。
そしてその右手の鎌を振り下ろした。
私は素早く受け止め、振り払ったが左手の爪が冒険者の1人の元気な女性を狙っていた。
「避けろ!」
「へ?」
と同時に女性はバラバラに切り裂かれた。
そしてその死体を死霊は乱暴につかみ喰らった。
「そんな…」「…ちっ。」
この死霊…オーガと同じか…そして山犬の嗅覚もあるんだろう。逃げられない。
死霊は左手の爪先から魔法陣を出し、炎魔法を飛ばしてきた。私は素早く避け、冒険者の男性も避けていたが、無口な男性は直撃してしまった。そのまま動かなくなった所を先程の女性と同じように喰われた。
残された男性が「くっそぉぉ!」と叫び、大きな斧を振り下ろした。死霊は避けず、腕をアーマー化させた。
(タンクの力か…)
そして力一杯振り下ろした男性は空中で硬直していた所を鎌で切り裂かれた。
私は…また新人達を…そんな絶望に心を病みかけたがここで私も死ぬわけにはいかない。
だが今のままでは勝てない。そう今のままでは。私は剣をしまい、無防備の姿で死霊と向かい合った。
死霊は不思議そうに首を傾げた。
「お返しだ。」
その一言で、場の空気が一気に冷え返った。
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