10
――クスリラがバチカルと前線へやって来てから数日間、特に戦況の変化はないままだった。
相変わらずブティカが兵を率いて反乱軍の陣に攻撃を仕掛けるか(結局、攻めきれず追い返される)、または敵の
当然、相談役としてリュドラの代理で来たクスリラに、ブティカは打開策を求めた。
「敵陣の前で悪口を言い続ければ、怒って出てくるかもしれません。まあ、あくまでかもですけどねぇ」
毎日ワインをあおりながら、酔っ払ったまま軍の会議に参加するクスリラの態度に、ブティカに付き
それも当然のことといえる。
兵たちは、命を懸けて母国であるリリーウム帝国を守ろうとしているのだ。
それなのに、今後を左右する重要な話し合いの場で、酒臭い人間がいれば
しかし、そんな周りからの
さらには誰よりも遅く目を覚まし、誰よりも早く寝ては戦っている兵たちよりも多く食事を取る。
そんなこともあり、「あの銀髪の女は戦場に何をしに来たのだ」と、クスリラの
それでもブティカからは、クスリラに何かを言うことはなかった。
むしろ彼女が適当に言った策――敵を
だが、結局プルドンら反乱軍が挑発に乗ってくることはなく、クスリラは人間的にも相談役としても味方内で立場がなくなっていった。
「このままでは兵たちが、クスリラさんを追い出せと言い出すのも時間の問題です……。ブティカ将軍からクスリラさんに、少しでもお酒を減らすように言ってもらえないでしょうか……」
そんな彼女のことを心配したラフロは、ブティカに進言した。
立場的に、総大将であるブティカからの言葉ならば、クスリラも聞かざる得ないはず。
かといって注意されたくらいで止められるとは思わないので、まずは酒の量を減らしていくようにと伝えてみてはと、ラフロはブティカにお願いしたのだが――。
「いや、その必要はない。あいつはこのままにしておけ」
ブティカは、クスリラのことは放っておこうと言い返した。
その理由は、クスリラにやる気というか、戦況を変えてやろうという気持ちが見えないことだと、ブティカは言った。
彼女はクスリラが来た次の日にはわかっていた。
クスリラは、自分の意志で戦場に来たのではなく、リュドラによって強引に来なくてはいけなくされたのだと。
そんな人物を
「以上が私がクスリラを放っておく理由だ。何か他にあるか、ラフロ?」
「しかし、ブティカ将軍。このまま
「わかっている……。私も私なりに動いてはいるのだが、なかなか上手くはいかんな……」
「一つ、よろしいでしょうか……?」
ラフロが言いづらそうに訊ねると、ブティカは構わないと答えた。
「では、言わせてもらいます。何も打開策がないならば、諦めずにクスリラさんに意見を求めるべきです」
「……そこまで言うならお前に任せる。クスリラ·ヘヴィーウォーカーから策を引き出してみろ」
ブティカはそう言うと、ラフロの前から去っていった。
少し投げやりに見えた言い方だったが、ラフロは上司の了解を得たと、グッと拳を握った。
それから一人軍幕に残された彼女は、ブティカに続いて外へと出る。
ラフロには確信があった。
クスリラがただの
それは、そのままクスリラを代理人に
あのリュドラが考えなしに人を寄越すはずがないと、ラフロはクスリラがいる軍幕へ歩を進める。
その途中で、彼女はバチカルの姿を発見した。
これまでバチカルがクスリラの傍を離れるなど、今までにはなかったことだ。
ラフロがそう思っていると、バチカルも彼女に気がつき、慌てて駆け寄ってくる。
その大きく鳴いる様子から、何かをラフロに
「ちょうどこれからクスリラさんのところへ向かおうと思ってましいたが、何かありましたか?」
ラフロは
するとバチカルは、身に付けていたショルダーバックから小さく折りたたまれた紙を取り出して、彼女に差し出す。
手に取って内容を確認してみると、それはリュドラが書いたものだと確認できた。
“もしクスリラが酒ばかり飲んで適当に過ごすようだったら。この手紙を誰かに見せなさい”
ラフロはその一文から始まる手紙を読み上げると、笑みを浮かべてバチカルに手を伸ばした。
そしてリスを自分の肩に乗せ、再びクスリラのいる軍幕へと歩き出す。
「リュドラさん、感謝します……。やはり私の
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