第6話

 俺は書き込みを続けた。


『警察が死者の身元を特定したとしても、マスコミがそれを公表するのかい? あんたが良くても、身内が嫌がると思うぜ』

『そうですね。では、もし私の身内が公表する事を承諾して、私の言っていたことが事実だと納得したら謝罪しますか?』

『しないね』

『なんですって!』

『そもそも、なんで俺が謝らなきゃいけないんだよ。俺の方が被害者だぞ』

『だから、心ならずも電車を止めてしまった事は謝罪しました。あなたも、私を侮辱した事を謝罪しなさい』

『やだね』

『なんですって!?』

『自殺じゃなくて事故だったとしても、謝る気なんかサラサラない。事故にあったあんたが悪い。だいたい障害者が一人で出歩くから、そんな目に遭うんだ』

『非道い! 障害者を差別するのですか?』

『差別して何が悪い。○○○(差別用語 自主規制)なんてなあ、家から出てくんなよ。出てこられたら俺達が迷惑すんだよ』

『信じられない。こんな侮辱』


 さらに俺は思いつく限りの罵詈雑言を、ツイッターに書き込んでいった。


 このババア、今頃涙目だろうぜ。


 まあ、本当にババアなのかは分からないが……


 しかし、本当に幽霊なんて事はないだろうな?


 もしそうなら、俺は後で祟られ……いやいや、幽霊というのは百パー嘘だ。


 俺が祟られる心配などありえない。


 ん? 隣から女が俺の袖を引っ張った。


「なんだ? ねえちゃん」

「おじさん。マズいよ。ツイッターにこんな事書いちゃ」

「でいじょうぶ、でいじょうぶ。こいつが幽霊だなんてどうせ嘘だから」

「そうじゃなくて。差別用語なんか書き込んだら、アカウント停止されるよ」


 そっちの心配か。だが……


「平気平気。アカウントなんてまた作ればいいさ、いつもそうしているし」

「いつも? じゃあなに? あんたいつもこんな非道いことをツイッターに書き込んでいるの?」

「おうよ。垢停止は俺の勲章さ」

「そのうち、アカウント停止じゃすまなくなるわよ」

「どう済まなくなるんだ?」

「この前、教道通信の記者がツイッターで暴言繰り返して告訴された事を知らないの?」

「ああ。たしか桜ようかんとかいう奴だったな。俺はそんなヘマはしない」

「あんた、最低ね」

「よく言われる」


 電車が動き出したのは、それからすぐ後のことだった。

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