第3話

 女が出て行った後、俺も電車から出た。


 別に尿意はなかったが、車両の先頭が見たかったのだ。


 だってなあ、平べったい電車の先頭に人体がぶつかったらどうなるのか気になるじゃないか。


 やはり煎餅みたいになるのか?


 マンガみたいにペラーっとなるのか?


 それともグチャグチャになるのか?


 ちっ!


 死体はもう片づけられた後か。残念、せっかくが見られると思ったのに……


 電車の先頭では、五人ほどの警察官が何か作業をしているだけだった。


 それにしても、電車の先頭は真っ平だと思っていたが、尖った連結器もあるのだな。


 ん? よく見ると連結器に肉片が残っている。


 せっかくだから、写真に撮ってネットに上げてみるか。


 俺はスマホを取り出すと、ツイッターに連結器の写真を貼ってから『なんちゅうことさらすんじゃ! ボケ! わしゃ急いでるんじゃぞ! 自殺するなら余所で死ねや! 地獄に堕ちろ!』と書き込んでから、送信した。


 しばらくしたら、程良く炎上することだろう。


 パシャ!


 ん? 俺以外にも電車の写真を撮っている奴がいるな。


 げっ! さっきのクレーマー女じゃないか。


 関わらないうちに離れよう。


 車内に戻った俺は、さっきのツイッターを開いてみた。


 お! さっそくコメントが……


『朝からグロイもん見せるな! 飯が食えないだろう!』


 この程度で飯が食えないとはヤワな奴だな。


 嫌なら見るな。と、返信しておいた。


『人が一人死んでいるのに、あんまりです。可哀そうだと思わないのですか?』


 思わん。何が可哀そうだ、この偽善者め。だいたいこいつは自ら望んで死んだのだろう。可哀そうなのは、こいつの巻き添えで足止め食らっている俺の方だ。


『事故でしょ? 自殺じゃないでしょ』


 自殺だよ。体裁が悪いから『人身事故』という言葉で誤魔化しているが、最近の鉄道で起きる『人身事故』とやらは、みな飛び込み自殺なんだよ。


 などと、愚民どもの相手をしているうちに、俺はいつの間にか眠っていた。

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