みんな雨ん中
みんな雨ん中
「これから見せるものは軍の最高機密だ」大佐に続いて、私は司令部の特別エレベーターに乗った。
大佐はRFのボタンを押した。
確か、ヘリポートのはずだが・・。
RFに着くと、庭園になっていた。そこに小さな家が一つ。
私達はその家に入った。
清潔な空気、白衣の男たちが何人か大佐を認め、頭を下げた。
赤毛の少年がソファに座りステーキを食べていた。
赤毛の少年は、ちょっと振り返り、ちょっと私を見て、すぐに窓の外に視線を移した。
「これは何だと思う?」大佐がグラスの中を指差した。
「水、ですか?」
「違う。これは空想を抑える薬だ」
「空想?」
「そう。彼は空想が止められない」大佐はそう言って、グラスを元に戻した。
大きなタンクを差し、「これだけの量を飲んで、わずか一日だ」と言った。
「彼は何を?」
「軍の暗号、作戦、相手の戦略、解決法・・、枚挙にいとまがない」大佐はそう言うと、自分用にミルクを注いだ。
「ここに閉じ込めて?」
「そう。一生な」大佐はミルクを飲んだ。
「それは問題です」
大佐はミルクを飲み終えて、私に背中を見せた。
「彼は人間ではない。染色体が一部変質している」
「染色体異常の子は人間ではないと?」
「彼に聞いてみればどうかね?」と大佐は私を見た。
私は赤毛の少年を見た。
「これは人助けだ」と言って、私の肩に大佐は手を置いて、庭園に連れて出た。
「あの薬を与えればいいだけの話ではありませんか」
「あの薬は彼特注のとても高価な薬だ。とても彼では買えないよ。言わば交換条件として軍に協力してもらっている」
「見ていられません」
「彼がいなければ戦争は終わらなかったろう。たまには、哲学の答えなんて出してるようだがね」と言ってハハハと大佐は笑った。
夜半、私は忍び込んでベッドで眠っている少年を起こした。
服を持って来た服に着替えさせ、水色の大きな帽子を被らせた。
「ちょっと待って。どこへ行くの?」
「外さ! そんなに空想が好きなら漫才でもやろうぜ! 人を笑わせるのは最高の気分だからな!」
私と少年は軍の施設を脱け出した。
「名前、ないの?」
「うん。いつもRFって呼ばれてたから・・」
「じゃあ、ロイって名前をやるよ。俺のじいさんの名だ」
少年はコックリと肯いた。
「ファストフードも初めて食べるのか?」
「うん」
「参謀殿、どこに逃げましょう?」私はふざけて敬礼をした。
「君は知らなくていいこと」
ロイは嬉しそうにハンバーガーを食べていた。
「逃げた?」
「ヤン少尉が・・」
「彼は失格だ」
デパートの屋上。
「あーあ、雨か。生憎だな」私はロイを振り返った。ロイは少年らしい笑顔を私に向けた。
私は通りを見下ろして、「雨の日が好きなんだ。みんな傘を差すだろ?」と笑った。
返事が聞こえない。
私は振り返った。ロイは下を向いている。
「どうした、ロイ?」
「頭が・・」
ロイは倒れ口からアブクを噴き出した。
「ロイ! ロイ! しっかりしろ! ロイ!」
「そこまでだ!」
軍のヘリコプターが3,4機来た。
「助けてくれ!」
ロイは男たちに毛布で包まれ、口からあの水のような薬を飲まされていた。
「助けてくれ! ロイを・・」私の首に何か刺さって、私は意識を失ってそのまま倒れた。
目が覚めたのは病室の中だった。
「来たまえ」大佐が冷たい声で言い放った。
私の病室から何フロアか歩いた隔離室に入った。
短い窓だけが開いた部屋の中を覗いた。
そこには、何もない部屋の隅から隅をクルクルと歩き回るロイがいた。
「これが君が犯した罪だ」
廃人になってしまった。
「中に入るかね?」
マイクから室内の声が聞こえる。
「チク、タク、チク、タク、チク、タク、・・」
ロイは一人笑いを浮かべ、そう繰り返している。
私はマイクを切った。
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