第四十話 これはただのランチです。*イチャイチャはしていません
可愛いカチューシャを付けた俺たちは、列に並んで待っていた。
ようやく順番が来て、笑顔の女性店員が声をかけてくれる。
「わ、お耳可愛いですね! お似合いです! お待たせしました。どうぞこちらへ!」
「は、はい! あ、ありがとうございます!」
「うふふ、式さん、声が裏返ってますよ」
「す、すまん……」
森クルーズが終わってブラブラしたあと、ランチを食べることにした。
ちなみに警察には勿論連絡していない。風花が申し訳なさそうにキャストさんに謝罪していたのは少し笑ってしまったが。
「みんな楽しそうだし、俺たちがバレる心配なんて必要なさそうだな」
「そうですね。次はどのアトラクションに行こうか、できっと頭がいっぱいですよ」
テーブルに案内されたあと、周りの人達を見ながらホッと胸を撫で下ろした。
人がいっぱいいる場所で風花とご飯を食べるなんて随分と久しぶりだ。
「わ、いっぱいありますね……」
「ああ、これは悩むな……」
沢山のキャラクターメニュー。
ネズミの形をしたオムライスや、犬をモチーフとしたハンバーグなど。
どれも美味しそうなので、二人で唸りながら悩む。
「ううー、選べないー! あ、そうだ! 別のを頼んでシェアしませんか!」
「シェア?」
聞きなれない単語、いや単語自体は知っているが、すぐに出てこなかった。
そんな言葉、学生以来に聞いたからだ。
「食べあいっこしましょー! それだと二つ美味しい物食べれますし!」
「駄目だ駄目だ。こんなところでまずいだろ!?」
「こんなところってご飯屋さんですよ」
「そういえばそうか……だったら、小皿をもらって取り分けるか」
「あ、いいですね。そうしましょう!」
注文を終えた俺たちは、待っている間に今までの思い出話をしていた。
初めて出会った時の無くしたアクセサリーだとか、交換日記、映画館、写真撮影、アヒル漕ぎ。
「なんだか随分と前に思えますねえ」
「ああ、そうだな」
つい感傷的になってしまって、思わずお互い沈黙になってしまう。
だが頼んでいた注文届けられテーブルに並べられるた瞬間、思わず笑みがこぼれた。
「えへへ、美味しそうですね!」
「予想以上だ。風花のおかげだよ」
「SNSで見ただけですけどね!」
何処へ行こうか悩んでいたが、風花が調べてくれたのだ。
彼女が頼んだチューチューオムライスには、ふたとろの卵が載せられていて、ケチャップの絵で可愛いネズミが描かれている。
俺のワンワンハンバーグは人参のしっぽが付いていた。うむ、これも可愛い。
「式さんのも美味し可愛いい! あ、写真撮りましょ!」
「ああ、撮ろう」
てっきりご飯のことだと思ったが、ちょいちょいと手をこまねかれる。
ああ、一緒に、ということか。
さっき一枚撮ったものの、なんだか恥ずかしくなる。
「はい、ピース!」
「ぴ、ぴーす」
ぎこちない笑顔も、いい思い出になるといいな。
それから美味しいご飯を食べながら楽しくおしゃべりしていると、風花のほっぺにクリームが付いてる事に気づく。
「それで、この前学校で――」
「風花、ほっぺた」
咄嗟に紙ナプキンで拭いてあげると、それを見ていた周りの誰かが小声で「いいな~」と声を漏らした。
ちょうど聞こえてしまった風花が、恥ずかしそうに頬を赤らめる。
っても、俺も目立つことをしてしまったなと反省。
「す、すまん……」
「い、いえ! 気づかなかった私が悪いのです!?」
こんな些細なことで恥ずかしがるほど、俺って奥手だったか……?
てか、歳の差ってどういう意味だろう……。恋人? 兄弟? それとも親子?
うーん、わからない。
◇
風花がお手洗いにいっている間にお会計を済ませておいたが、財布を出そうとする。
そのことを説明すると、慌てふためいた。
「ご、ごめんなさい! お化粧直ししてて――」
「大丈夫、気にしないでくれ、いい場所を教えてもらったお礼だ」
それでも「いいんですか?」と、何度も訪ねてきた。こういう所、ほんと律義なんだよな。
「じゃあ次はジェットコースターに乗らないか? 久しぶりだから怖いだがせっかくだしな」
「ふふふ、はーい! 行きましょっ」
外に出た瞬間、俺の腕をぎゅっと掴む。慌てて軽く振りほどこうとするが、風花はそれでも離さない。
「ちょっとだけです。寒いので!」
「……着いたら離さなきゃダメだぞ」
「はーい!」
アトラクションに到着するまで、俺は気が気でないのだった。
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