第三十二話 初めてのお泊りは二人と一匹で
「にゃお」
「ほら、ミルクだぞ。焦らず飲めよ」
「にゃーご」
小皿にミルクを入れてあげるとニャン太は勢いよく飲みはじめた。
どうやら随分とお腹が空いていたらしい。
いつから道路にいたのかわからないが、風花が居なければ死んでいた可能性は高いだろう。
「ニャン太、美味しい? ねえ、美味しい?」
そして同じ姿勢で、風花がしゃがみ込んでいた。
仮にも芸能人ですよ、スカートは抑えてくださいっ!
「二人とも、もうすぐご飯出来るからねー!」
「はい! 雫さん!」「あいよ」
台所から雫の声が聞こえる。
自前のエプロンをしながら、今度は失敗しまいとハンバーグを作ってくれていた。
結局、風花も自宅に来てしまった。
美咲さんに連絡を入れたのだが、風花がそう言っているならテコでも聞かないですよね、と。
俺としても雫を呼んだので問題はない。会社にキチンと了承を取り、今日だけ風花に泊まってもらうことになった。
「ニャン太は可愛いねえ、ねえ、ニャン太あ」
「にゃお、ペロペロ」
……可愛い。
今この動画を撮影してネットにアップしたら、とんでもない数字が叩き出せるんじゃないか?
バズりにバズるぞ……。
って、いかんいかん、今はプライベートだ。
「ニャン太っ、ニャン太っ」
「にゃお?」
やっぱり……ちょっとだけ撮影させてもらおうかな。
「はーい、出来たよ! 座ってー!」
「は、ははあい!?」
しかし雫の声で現実に引き戻される。
そもそもどこで撮影しているんだとなってしまうはずだ、ダメだ。冷静に判断ができていない。
気を付けなければ!
◇
「ニャン太、ニャン太ーっ」
「にゃお?にゃおにゃお」
家にある猫じゃらしもどきみたいな棒で、風花が遊んでいる。
そして俺は――。
「いいよお! 風花! ニャン太ぁ! 可愛い、凄く可愛いよ! こっち向いてえ」
「お兄ちゃん……落ち着いて」
やっぱりこの瞬間を逃すのは、マネージャーとしてありえないと撮影してしまっていた。
もの凄く可愛いのだ。どちらも可愛いのだ。
逃すわけにいかない。
誰の家で撮影しているのとかは、後で考えればいいこと。
ちなみにハンバーグはもの凄く美味しかった。最高だった。チーズinだった。余韻に浸らなくてすまん。
今だけは没頭させてくれ。
「ほら、こっち向いて! ニャン太、風花!」
「にゃおー」
「ニャン太、ほらほら式さんのほうにっ」
「お兄ちゃんの目が輝いてるっ!」
ああ、最高! ニャン太×風花っ、最高っ!
――――
――
―
「あれ? 雫はどこだ?」
撮影会が一息ついたあと、雫の姿がない。
台所、トイレ、お風呂場、ベランダ、テレビの裏まで探したがいない。
「……消えた?」
「雫さん、帰りますねって言ってましたけど、聞いてなかったんですか?」
「え?」
慌ててスマホを確認してみると『明日仕事だから帰るねー』と書かれていた。
「ニャン太、今日は一緒に寝ようねー!」
「にゃおにゃおー!」
慌てて電話したが、明日はどうしても仕事で帰らないといけないとのことだった。
美咲さんに連絡しようとしたが、風花にもう寝ているからやめたほうがいい言われてしまう。
ってことは……。
「よし」
俺は再びスーツの背広を羽織る。風花はそれを首を傾げながらそれを見ていた。
「式さん、何してるんですか?」
「俺はネカフェに行ってくる。戸締りは頼んだぞ」
「え、えええ!? ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
玄関に向かおうとしたら、背中の服をつままれてしまう。
「にゃごー!」
「流石に二人きりはまずい、まずすぎる」
「さっきはあんなに楽しそうじゃなかったですかー!」
「それとこれとは別だ」
「でも、一人きりのが危険ですよ! 悪党が入ってきたら私とニャン太じゃ太刀打ちできないです!」
「悪党……」
そう言われると困る。うちの家は風花の家と違ってセキュリティがしっかりしているわけではない。
とはいえ、二人きりなんて……。
「二人きりじゃないですよ。ニャン太もいますし!」
「にゃお?」
「そ、それはそうだが……」
「前は寝る前に手を繋いでくれたじゃないですか、どうして今日はダメなんですか?」
「ぐ……」
それを言われてしまうと言葉が出なかった。
ただ、以前は風花を一人にさせることをできなかったからだ。
ただ……ここで俺だけ消えるのは確かに無責任すぎるかもしれない。
「……わかった、寝な――」
「寝ないとダメです」
伝えようとした言葉を、先に言われてしまう。
思わず後ずさり。ニャン太は相槌のように鳴いた。
「ここは式さんのお家で、私はお邪魔させてもらってるんです。そんなこというなら、私が寝ません」
「……それはダメだ」
「だったら、ちゃんと寝てください。お母さんは式さんのことを信頼してます。会社も、私もです。だから、そんなに気にしないでください」
風花の表情は真剣そのものだった。それに正論だ。
ここまで言われて更に文句を言うのは、ただの駄々っ子か。
「わかった。じゃあ、今日は特別だ。といっても、ベットはもちろん別だぞ。俺は床で寝る」
「ダメです、私が床で――」
「それだけは絶対にダメだ。譲らない」
俺は鋭く言う。風花も聞かないと気づいたらしく、ため息をついたあと、「わかりました」と頷いた。
そしてニャン太も。
「にゃーお!」
嬉しそうに鳴いた。
そしてまさかのまさか、初めての二人きりのお泊りが決まってしまうのだった。
……あと一匹。
――――――――――――
雫がいると思いきやそんなことはありませんでした。
次回は新婚生活ばりの出来事が!?
あるような、ないような。
これからも頑張りますので応援よろしくお願いします!
ぜひとも、フォロー&星「☆☆☆」よろしくお願いします!
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