第二十四話 今泉式の自宅でピザパーティ

「どうぞ、どうぞっ、狭いところだけど上がってねー」

「お前の家じゃないだろ……」


 雫の強引なお誘いにより、風花の母親の許可を得て、風花がうちでご飯を食べていくことになった。


「お、お邪魔します」


 いつもは明るい風花も、元気すぎる雫の前では少し大人しく見える。

 ってか、昔からうるさいんだよなあ……。


『お兄ちゃん、いじめられだ……』

『お兄ちゃん、告白じだらふられだ……』

『お兄ちゃん、さびじい……』


 と、事あるごとに俺を頼ってきた。

 ただまあそんな妹も、今では立派に社会人をしているというのだから驚きだ。


「ごめん、綺麗はしているつもりだけど、そんな広くないんだ」

「い、いえ! でも、なんか式さんの匂いがします。――あっ、な、何でもないです!」


 風花が家をキョロキョロと見渡してから嬉しそうにいったあと、頬を赤らめる。

 ……匂い? もしかして臭いのか?

 加齢臭が!? もしや、もう出ているのか?


「えへへ、もういいよね?」

「はい? もういいって、何がですか雫さ――」

「生風花ちゃんだー!」

「ふぇ、えええ!?」


 突然俺の目の前で、風花に抱き着く雫。

 ちなみに大ファンなのは知っている。俺がコンプライアンスを徹底していることもあって、家の外では騒がなかったのだろう。

 そこは褒めてやろう。そこだけは――。


「こらこら、やめなさい」


 二人を引きはがすように押しやると、雫が思い切り抵抗する。


「な、なんでえええ」

「怖がってるだろうが」

「だって、生風花ちゃんが! ここに!」


 けど、風花は大丈夫ですよ、と雫をフォローしていた。

 さすが、ファン対応が素晴らしくて神といわれるだけある。

 甘やかしすぎはよくないゾ!


「そういえば、雫料理してなかったか??」

「え? あ、あ、ああああああああ!?」

 

 結局、雫のハンバーグは焦げ焦げとなり、明日の俺の朝食となったのだった。


 ◇


「ありっしたー!」


 そして近くのピザの宅配を頼むことに。


「えへへ、もちもちピザの新作だー!」

「静かに開けなさい」

「ふふふ、式さんと雫さんって凄く仲がいいんですね」

 

 ピザの開封をしているやり取りをみていた風花が、俺たちをみて笑っていた。

 仲がいい……か?


「そうでしょー?」

「どう見ても悪いだろ」


 同時に被ってしまい、風花がまた微笑む。

 うーむ、外から見えるとそうなるのか。


「式さん、そんな砕けた話し方は私にしないですからね。心を許してるんだなって思います」

「えへへ、お兄ちゃんそうなの? ほんと照れ屋なんだからー!」

「調子に乗るんじゃない」


 褒められているのか、それとも弄ばれているのかはわからないが、風花は楽しそうだった。

 それから俺たちはピザを食べながら色々な話をした。


「え、雫さんは式さんとずっと暮らしていたわけじゃないんですか?」

「雫はうちの母親の再婚相手の連れ子だ」

「ということは……義理の妹っていうやつですか?」

「そういうことになるな」


 風花に説明した通り、雫と俺は血が繋がっていない。

 俺が17歳の時、風花と同じ年齢の雫と初めて出会った。


 初めはオドオドしていたが、次第にこんな風になってしまった。

 どこでどうこうなってしまったのか……。


「血の繋がりなんて関係ないよねー! お兄ちゃんはお兄ちゃんだし!」

「この歳でお兄ちゃん連呼されると恥ずかしいからやめてくれ」

「ふふふ、でも、いいなあ。私、兄弟がいないので羨ましいです」


 風花がボソッといった一言で、雫はまたもや思い切り抱き着いた。


「だったら、私がお姉ちゃんになるうううう」

「え、いいんですか?」

「うん、しずねえでも、雫ちゃんでも、お姉ちゃんでも、しーちゃんでも!」

「えへへ、雫さんは優しいですねえ」


 いつの間にか意気投合している。

 嬉しいような、不安のような。まあでも、雫は変なヤツだがいい子ではある。

 何かあった時に頼れる人が多いのは嬉しいかもしれない。


『お風呂が、湧きました♪』


 その時、アナウンスが流れた。

 セッティングをした覚えはない。


「風花ちゃん、いこーっ!」

「え、お風呂にですか!?」

「おい、雫!?」


 ピザで手が汚れちゃったからという謎の理由で、雫は風花を連れて行く。

 さすがに抵抗する風花だったが、何かを囁かれ大人しくなっていた。


 一体、なんて言ったんだ……。

 余計なことを吹き込まれなきゃいいが。


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