第十五話 仲良し? 仲直り? お友達です!
「いいねえ。安藤さん、いい笑顔してるよ!」
宣言通り、風花の後半戦は堂々とたるものだった。
ただ、やはり紬ちゃんとは少し距離がある。
(距離というか、なんというか……)
俺の隣には、プロデューサーの如く鋭い目線を娘に送っている、藤崎香苗さん――が立っていた。
「何か気になることでも」
俺に視線を向けず、前を向きながら言った。
気付いていたらしい。おそるべし。
「すみません……。お母様ってのを聞いてびっくりして」
「みんな驚きますね。後、相当な親バカなんだろうなって思われます」
「そんなことは……どういう経緯でマネージャーになったんですか?」
「元から芸能関係の仕事をしていたんです。それで紬が子役になりたいと言い出して。まあでも、それを受け入れる私は親バカですね」
「いえ、羨ましいです」
「羨ましい?」
香苗さんは、首を傾げながら顔を向けた。
「うちは父親がいなくて、幼い頃に母との思い出があんまりないんですよね。だから、ずっと一緒にいることができるのは羨ましいです」
「でも、最近はそうでもないですよ。お母さんじゃなくて、別のマネージャーさんがいいって言われますし」
「離れたら離れたで、きっと寂しいって言いますよ」
「だったらいいんですけどね。今泉さんはお優しいですねえ」
それから俺たちはマネージャー業務に花を咲かせた。
楽しいことから大変なことまで。それでも終始香苗さんは笑顔だった。特に娘さんのことをを話すときは、心から愛してるのだろうとわかった。
それから数時間後、二人は無事に撮影を終えた。
風花が褒めてほしそうに、尻尾を振って駆け寄って来る。
こういうところは、本当に可愛いなと思う。
「疲れたー。式さん、その……どうでした?」
「凄く綺麗だったよ。ポージングも前より良くなってたから、努力のおかげだね」
「本当ですか!? えへへ、嬉しいです」
実際、風花は日々良くなっている。今でも凄いというのに、己を進化させるのは見習わなきゃならない。
「お母さん、どうだった?」
「うーんまだまだね。姿勢をもっと良くしなきゃだめよ。でも、綺麗だったわ」
「厳しい……。でも、ありがとう♪」
なるほど、紬ちゃんの素はこっちなのか。
風花は壁を感じると思っていたが、やはり俺の予想は的中してそうだ。
だったら……少しきっかけを作ってあげたいな。
「風花、今日はこの後オフだったと思うが、時間あるか?」
「時間? ありますよ、どうしました?」
「だったら、ちょっとお願いがあるんだ」
風花の許可を取る為に、小声でそっと訊ねてみた。
すると、少しだけ不安げだが、ゆっくりと頷いてくれた。
彼女の視線は、香苗さんと紬に向けられていた。
「ありがとう、じゃあ、聞いてくるよ」
そうして俺は香苗さんと紬ちゃんの所まで移動し、声をかける。
「すみません、ちょっと時間ありますか?」
「あら、どうしました?」
「もしよかったら、お茶でもしませんか?」
◇
テレビ局の近くに、隠れ家的な喫茶店がある。
木々に囲まれたカフェがコンセプトで、野外に設置されている椅子に腰を掛ける。
と、その前にまずは二人を優先した。
「どうぞ、座ってください」
「ありがとうございます」
香苗さんと紬ちゃんの椅子を引く。
風花にも引いてあげると、「えへへ」と喜んでいた。
ほどなくして、顔見知りが注文を聞きに来た。
「おや、今泉くん久しぶりだね」
「雄二さん、お久しぶりです。すみません、時間が空いてしまって」
「こうして顔を見せてくれるだけでも嬉しいよ。相変わらず小松原さんに怒られてる?」
「ええ、それなりに怒られてますよ。まあ頼みごとも多いですが」
「仲良くやってるんだね。もう注文は決まってるかい?」
香苗さんはコーヒー、紬ちゃんと風花はオレンジジュースとのことだった。
「――あと、シフォンケーキを二つもらえますか?」
「畏まりました。ごゆっくりどうぞ」
注文を終えると、風花が誰ですか? 訊ねてきた。
「うちの会社の元上司だよ。昔、よく世話になってね。だから、気兼ねなく撮影のことを話しても問題ない。香苗さんと紬ちゃんも、気を遣わないでください」
「ありがとうございます。良い所を教えてもらたわね、紬」
「う、うん……」
紬ちゃんは、風花のこと気にしているみたいだ。
やっぱりそうだなと確信し、本題に入る。
「すみません、突然誘ってしまって。あまり横との交流が出来ないものですから、これを機会に仲良くなれたらいいなと思いまして」
「いえこちらもオフでしたので、ありがたいです」
誘ったのには理由がある。
風花には同年代の知り合いが少ない。もちろん学校ではいるが、仕事仲間というのがいないのだ。交換日記でもそれが書いてあった。
見たところ、紬ちゃんは恥ずかしがり屋だと思った。だからこそ、風花と仲良くできるきっかけを作ってあげたかった。
「そう言ってもらえて嬉しいです。紬ちゃんは、シフォンケーキ好きですか?」
「ケーキは好きです。でも、子供扱いはしないでください」
「紬、その言い方はやめなさい」
「大丈夫ですよ。美味しいから是非食べて」
撮影でのあるある話をしていると、飲み物とケーキが到着。
シフォンケーキの上には、生クリームが乗っており、ほどよい甘さが絶妙に美味しい。
一口食べた瞬間、紬ちゃんと風花の顔が明らかに笑顔になった。
「式さん、このシフォンケーキ最高です!」
「……美味しい」
嬉しそうに頬張る風花。紬ちゃんにも好評のようでホッとした。
二人はそれをきっかけに少しずつ会話が増えていった。
普段言えないような仕事のことや、ドラマや映画の話。
藤崎紬は、安藤風花とたびたびライバル視されるほどの演技力と可愛さを兼ね備えている。
だからこそ、周りから比喩されることが多いのだろう。
大人のせいで、二人がギクシャクしているのを見ていたくなかった。
「紬ちゃん、一緒に写真撮らない?」
「え? べ、別に構わないけど……」
風花はいつのまにか紬ちゃんと距離を近づけようと積極的だった。
敬語もなく、二人は友達のように笑い合いはじめる。
「式さん、二人で写ってる写真、SNSにあげてもいいですか?」
「うちは問題ないよ。ただ――」
「私たちも大丈夫です。紬も上げたらどう?」
「え? うん……じゃあ、私もあげようかな」
どうやら作戦は大成功のようだ。
◇
「今泉さん、今日は楽しい時間を過ごさせてもらいました。風花ちゃんもありがとうね」
「いえこちらこそ! ありがとうございました!」
ペコリと頭を下げる風花。
紬ちゃんが以前とは違う表情で、風花を見つめていた。
「風花ちゃん、今日みたいに敬語なくていいからね」
「え? あっ! ご、ごめん。――でもいいの?」
「対して芸歴も変わらないし……。今度はプライベートで遊ばない? もしよかったらだけど」
「うん! 嬉しいよ。楽しみにしてる。またね、紬ちゃん!」
手を振る紬ちゃんと風花は、中学生らしく、そして綺麗だった。
あと、香苗さんは超絶美人。
「それじゃあ帰ろうか」
「式さん、ありがとうございます」
「え?」
「私と紬ちゃんが仲良くなるようにと、誘ってくれたんですよね」
「違うよ、俺が香苗さんと仲良くなりたかっただけだ」
「それはダメです。でもほんと、嘘が下手ですよね」
まったく、こういう時は鋭いよなあ。
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