第六話 交換日記
「交換日記……?」
「はいっ、私たち随分と仲良くなれたと思うんですが、やっぱりまだ知らないこともありますし」
テレビ局に到着した途端、キラキラ顔の風花に手渡されたのは、デコレーションシールや猫の絵が表紙に書かれているノートだった。
中を開けてみようとすると、勢いよく止められる。
「今はダメですよ!? 私のいないところで読んでくださいっ。交換日記のマナーです!」
たしか中学生の頃にやった記憶がある。あの時はゲームの話を書いた気がするが、今は何を書けばいいんだ?
ビールの銘柄? 髭の剃り具合? ……最近、腰が痛いとか?
「辞退するというのは……」
「ああ、インターネットで中傷された傷がまだ癒えてな……い……」
普段は演技が上手いのに、こういうときは大根役者になる。
とはいえ、マネージャーとして彼女のお願いは最大限聞いてあげたい。
「……大したこと書けないぞ」
「構いませんっ! あ、好きな女性のタイプとかも書いてもらえれば!」
「書きません」
「なんだぁー、残念っ」
不満そうに口をとんがらせつつも、美味しそうにチョコレートを頬張る。
こういうところはまだまだ子供なんだよなあ。
「さて、切り替えだ。今日はオーディション。喉の調子は大丈夫か?」
「ばっちりオーケーです!」
いつものように元気よく声をあげる。
とはいえ、正直今の彼女に勝てる同年代はいないだろう。
どちらかというと、ほかの子が可哀想なくらいだ。
車を降りた瞬間、駐車場は危ないので、いつものように服の袖を掴まれる。
この時が一番機嫌が良さそう。
「オーディション時は立ち入りできないから、楽屋で仕事してるよ。何かあったらすぐにメッセージもらえるかな」
「はいっ、交換日記も宜しくお願いしますね。好きに書いてもらっていいので」
風花が、ニコニコ顔で去って行く。
何を書けば彼女が喜ぶのかと打算的に考えてしまい、それが大人すぎるなあと嫌になる。
好きに書いてもらって、か。余計に難しいな。
◇
『式さんの運転はいつも丁寧で、お菓子のチョイスも最高です。それに式さんはとってもいい匂いがします。
それで学校での私のあだ名は~、親友の
書類仕事を終えてノートを開くと、眩しいばかりの日常が書かれていた。
俺のことを褒めてくれたり、学校のこと、親友のこと、自宅で食べたご飯まで。
なんだか、青春をガツンぶつけられている気分だ。
初々しさと同時に羨ましくもなる。
だが、意外にも知らなかった友達の名前などを知って、少々嬉しくもあった。
これって、親の気持ちか?
しかし、一つ気になることがある。
彼女は母親と二人暮らしで、俺も何度か挨拶はしたことがあった。
仕事で忙しいのは知っているが、日記に一度も書かれていない。
大丈夫だろうか……。まあ、あんまりプライベートに入り込みすぎるのもよくいか。
「さて、俺は何を書こうかな」
――――
――
―
「ほらよ、交換日記だ」
帰りの車内、風花の膝の上にぽんっと日記を置く。
なぜかきょとんとしている彼女だが、突然、無言でノートを開こうとする。
もちろん、阻止。
「交換日記のマナーはどうした」
「まさか本当に書いてくれるとは思わなくて、えへへ」
「屈託のない笑みで誤魔化さないでくれ」
「バレちゃいました? あ、シートベルト完了です!」
「はい、出発します」
結局、彼女は帰りの間もずっとノートを嬉しそうに眺めていた。
肝心のオーデションは合否はまだ先だが、最後、プロデューサーが俺に挨拶しにきたぐらいなので、ほぼ確定だろう。
「じゃあ、また明日返しますね!」
「毎日続けるのか……?」
「日記ですから!」
「せめて週1にしてくれ、大人は毎日変わらない日常を送ってるんだ。ハイライトにしないと書くことがない」
「えー! だったら、私への質問とかでもいいですよ? 知らないこととか、知りたいこととか」
「それは頭に全部入ってる」
「ふふふ、そうやって私を
そして、俺はいつものように返す。
「「マネージャーとして当然のことだ。です!」」
口調を完璧に真似されてしまう。さすがに笑ってしまって、頬が緩んだ。
「それじゃあまた。頼むから週1な」
「もー、わかりましたよ。それじゃあありがとうございます、式さん」
さて、帰るか……。
――――――――
交換日記、幼い頃したことありますか?
ちなみに筆者は大人になってからしたことありますが、本当に何を書くのか悩みました。
二人は楽しく続けられそうなので、見ていてほっこりします(^^)/
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