第五話 子供扱い、大人扱い。

「失礼します」

「今泉君、そこに掛けてちょうだい。まあ、わかってると思うけど」

「……はい」


 上司の小松原朱音こまつばらあかねさんにオフィスに呼び出されていた。

 あの日、猫のキーホルダーの事件の話だろう。

 最悪なことに……写真が撮られていた。


 それも、最悪な場面の。


「ネットが大変なことになっているわ」

「はい……全部、俺のせいです」


 小松原さんはため息をついて、辛そうな表情を浮かべた。

 おそらくだが、クビだろう。


「手を繋いだのは、好きだから?」

「い、いや!? 繋いだってわけじゃないですよ!? あれは引っ張っただけで……それに好きなわけないじゃないですか」


 すると小松原さんは、真面目な表情から一転して、ふふふと笑う。

 ……あれ?


「わかってるわよ。倒れたから引っ張ってあげたんでしょ。ちゃんと安藤さんから聞いてるわ。ネットで騒がれてはいるけど、そもそもあなたがマネージャーさんだってのは周知されてるから問題ないのよ」

「どういうことですか?」


 聞けば、俺のために風花が早くに手を打ってくれたらしい。

 全部、俺に迷惑がかからないように、あえてHPで早めに情報を出していたそうだ。


「確かに今回のは事故で、誰も悪くない。けど、誰かが責任を負わなきゃいけなかった可能性もあるのよ」

「……重々承知しています」

「まあ、今回は急遽マネージャーをお願いした私にも責任がある。でも、引き受けたからには気を付けてほしい」

「わかりました。申し訳ないです」


 おそらくだが、小松原さんも社長に結構言われたのだろう。最大限気を遣ってくれているが、もしかすると本当に俺の首が危ないところまできていたかもしれない。

 小松原さんは昔から強気な発言は多いが、それと同じぐらい優しさに溢れている。

 だからこそ今回のマネージャーの件も引き受けた。


「それじゃあ引き続きよろしくお願いします。それと、前任の山本さんがありがとうございますって、貴方に伝えてと」

「はい、わかりました」


 ありがとう……か、今回の事件も知っているだろうが、それでもお礼を言ってくれるのは……優しいな。

 俺も気を引き締めないといけない。


 ◇


「ということで、すまなかった。俺が手を打たなければならなかったのに、風花にしてもらって……。マネージャーとして失格だ」


 仕事を終えて車内、風花の家に到着し、彼女に謝罪をした。

 マネージャーとして、大人として、やるべきことをやらなかった俺のミス。

 なにもかも……と、その時、風花が無言で顔を近づけてくる。


「どうした? なんだその特殊な手――いたっ!?」

「鈍感デコピンの刑ですっ!」

「な、なにすんだ!?」


 ただ、風花は笑っていなかった。それどころか、悲し気な表情を浮かべている。


「失格だなんて、そんなこと言わないでください。式さんは私を助けるためにしてくれたんじゃないですか。迷惑をかけたのは私なので、自分で責任を取っただけです」

「違う。本当なら大人の俺がすべきことだ」

「中学生でも、私は立派に働いています。都合のいい時だけ子供扱いするのは、ズルですよ」


 言い返せなかった。彼女の言う通りだ。けれど、けじめはつけておかなければならない。


「わかった。けど、もし今回のことで仕事がキャンセルになったり、何か問題が起きたら俺が全部責任を持つ。もし友達に嫌なことをいわれたらしても言ってくれ。絶対守るから」

「…………」


 しかし風花は、少し表情を変え、きょとんと目を見開いている。

 あれ、そんな変なこと言った……か?


「それって……愛の告白ですよね?」

「違います。マネージャーとしての責務の話です」

「えーなんだー、残念ー、式さんはそうやって子供を揶揄うんですねー」

「さっき大人扱いしてくれって言ったとこなのに……」


 まったく、本当に要領が掴めない。

 けど、今は満面の笑みを浮かべている。


「冗談ですよ。じゃあまた明日、私の騎士ナイトさん♪」

「ああ、また明日、お姫様」


 自宅に向かう彼女の背中はいつもより楽し気だ。

 なぜスキップをしているのはよくわからないが。


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