第22話 死闘
ツクレイジーが放った片方の光は、ミカドロスさんが隠れていた机をひっくり返して飛ばした。身を晒されたミカドロスさんはスプレー缶を握ったまま、あたふたと周囲を見回す。
もう片方の光は板状となってツクレイジーの前に広かった。それと同時にミカンさんが放った矢がその光の壁に当たる。矢は燃え尽きてしまった。
「チッ。これは……」
オカンねえさんはナイフを投げるのを止めた。
ミカンさんが放った次の矢が光の壁に当たった。また矢は燃え尽きた。
オカンねえさんが叫ぶ。
「ミカン、無駄矢はアカン。あれは
ミカンさんは弓を下ろした。
ツクレイジーは光の壁を縦にして、斧のように振り上げると、ミカドロスさん目掛けて振り下ろした。
「わあ!」
頭を抱えて身を丸めたミカドロスさんにシーシ・マコーニさんの鞭が絡まり、彼をこちらまで引き寄せた。
床を滑ってくるミカドロスさんの横に光の壁が断頭台の刃のように突き刺さる。
その瞬間にアルエがツクレイジーの懐近くまで間合いを詰めた。彼女は目にも止まらぬ速さで太刀を振るう。しかし、彼女が斬ったのはツクレイジーの残像だった。
アルエの背後に回ったツクレイジーは、さっきの机と同じように光でアルエを吹き飛ばす。そして、顔の前に飛んできたナイフを掴むと、一瞬でオカンねえさんの目の前まで移動し、逆手に握ったナイフをオカンねえさんの脳天に突き立てようとした。
「な……?」
ツクレイジーのスピードにオカンねえさんの目は追いついていない。ナイフの刃がオカンねえさんの頭皮に近づいた瞬間、その手首を矢が射抜いた。
その矢の威力に、横に腕ごと押されたツクレイジーは瞬時にオカンねえさんから離れた。
「あら?……どないなっとん」
オカンねえさんは目をパチクリとさせながら、肩に乗った自分の金髪を手で払い落とした。
手首を貫通した矢を折り、そのまま引き抜いたツクレイジーは、歯ぎしりしながらその矢を燃やして灰にした。手首の傷も塞がっていく。
当然、その矢を放ったのはミカンさんだが、今度はさっきと違う方法だったようだ。ミカンさんの隣でキエマちゃんが弓矢に魔法をかけて速度と威力を上げていたらしく、ミカンさんの弓は金色に輝いていた。
「ぬうう、小賢しい……」
また筋肉に血管を浮き立たせて悔しがったツクレイジーは、今度は光の玉をキエマちゃんとミカンさんに向けてそれぞれ投げた。
キエマちゃんに飛んだ玉をシーシ・マコーニさんの鞭が叩き落とす。でも鞭は焼き切れてしまった。
一方、ミカンさんは光の玉の直撃を受けそうになった。その瞬間、彼女の前にシロクマさんが立ち塞がり、それを受け止めた。光の玉は爆発し、シロクマさんはバタリと倒れてしまった。
子熊とペンギンが急いでシロクマさんのところに駆け寄る。勿論、ミカンさんも。
私は高く跳んだ。剣を振り上げ、シロクマさんの横で介抱しているミカンさんの方に光の玉をもう一度投げようとしているツクレイジー目掛けて襲い掛かった。
私の影に気付いたツクレイジーは、咄嗟に、その投げようとしていた光の玉を変形させて棒状にすると、落下の勢いを利用して斬りかかった私の剣をそれで受け止めた。
着地した私はそのまま力を込めて剣を押し下げた。日頃の筋トレ非常時に元とれ! ここで力負けしては、日々のキツい筋トレの意味が無い!
「うおおおお!」
私は全身全霊の力を込めて剣を押した。ツクレイジーは三角筋と上腕三頭筋、そして大胸筋を膨らませて私の剣を押し返そうとする。その時だった。キエマちゃんが私に光線を飛ばした。金色の光が当たった私は、不思議とこみ上げる力を感じる。ツクレイジーが押し返す力を感じない。私の剣は真下に引き寄せられる感じがする。
「いけえ! ドレミ! いっきに決めたれ!」
オカンねえさんの掛け声に合わせて私は一気に剣を押した。私の剣は光の棒を断ち切り、そのままツクレイジーの体を縦に真っ二つに切り裂いた。
「よっしゃあ!」
ガッツポーズをとるオカンねえさんの声と同時に、私の剣が床を叩いた。その音が響くよりも早く、私は剣を横に振った。空を斬る音と共に視界の隅で黒い霧が渦巻く。
「おのれ、早い!」
私が切り裂いたのは残像だ。奴は私に敵わないと判断した瞬間に、その場から逃げたのだ。
部屋の隅で渦巻いていた黒い霧は、やがて人の形になり、ツクレイジーの姿となった。
「なるほど、魔法の力を借りれば、それなりの実力ということか。よし、わかった。まずはアイツだな」
ツクレイジーは掌をキエマちゃんの方に向けた。躊躇なく掌から魔弾を飛ばす。
赤黒い光の矢がキエマちゃんの眼前に迫った時、彼女の前に半透明のローブ姿の老人が現れ、その魔弾を弾き飛ばした。
その幽体のような老人を見て、キエマちゃんが声をあげた。
「お師匠様!」
その老人の姿を見たニクス王も叫んだ。
「windrain魔法師!」
ツクレイジーが驚いた顔を向ける。
「なに、あのwindrainか!」
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