第21話 真相

 ひととおりのポーズをとり終えた自称魔王のツクレイジーは、立ち尽くしているヒグラシを指差して言った。


「ドレスを着てブラを装着したオッサンを弟にもった覚えはない!」


 ツクレイジーの指先から光線が放たれる。それはヒグラシに命中し、彼は遠くに飛ばされた。


 人差し指の先から昇る白煙を吹き消し、ツクレイジーは言う。


「せめてもの情けだ。殺しはせぬ。だが、次に会う事があれば、命の保証はしない。覚えておくがいい……ぬ!」


 さっきアルエが斬り倒したミノタウロスが握っていたなたを咄嗟に念力で引き寄せたツクレイジーは、それを掴むとすぐに振り向いて、自分に振り下ろされた剣の刃を受け止めた。


 背後から斬りかかったのは、ニクス王だった。筋肉自慢の彼のたくましい腕で振り下ろされる一刀は強烈なはずだ。それを片手だけで受け止めるとは、ツクレイジーは何という筋力の持ち主なのだ!


 両肩に力を込め、歯を食いしばって剣を押すニクス王をあざ笑いながら、ツクレイジーは言った。


「フン。非力な男ニクスよ。あの巨獣バロールを倒した男だと聞いていたが、口ほどにもない。大いなる魔界の力を修めれば、こんなに強力な筋肉も作れいじー!」


 ツクレイジーは鉈を振って押し返した。ニクス王は勢いよく飛んでいく。


 折れた鉈を放り投げたツクレイジーは、壁に激突して倒れているニクス王を見据えたまま、横に片手を上げた。


「ミノタウロスよ、新たな剣を渡せ。奴にとどめを刺す」


 ツクレイジーの背後に鞘に納められた剣を掲げたミノタウロスが現れた。だが、そのミノタウロスは剣を渡すことなく、床に倒れた。見ると、後頭部にフォークが刺さっていた。


 その後ろには、指先でステーキナイフをクルクルと回しているオカンねえさんが立っていた。


「残念やったな。お仲間はん達は全員やっつけたで。もう、あんた一人や」


 ツクレイジーは広い迎賓の間の中を見回す。ゴブリン達もミノタウロス達も皆、床に倒れていた。


 ツクレイジーの足下の床をむちが一撃する。


「諦めて投降しなさい。そうすれば、人間として正当な裁判で裁いてあげます」


 そう言って鞭を引き戻したシーシ・マコーニさんのメガネが白く光る。


 その奥でミカンさんが弓矢でしっかりとツクレイジーを狙っていた。


 キエマちゃんは広げた掌をツクレイジーの方に向けて何かを小声で唱えている。準備万端だ。


 ミカドロスさんはツクレイジーの近くのテーブルの陰に隠れて、魔法薬スプレーを噴霧しようと構えていた。


「もう、お終いどすなあ。諦めよし」


 細い剣を構えてスッと立ち上がったアルエがはんなりと言う。


 向こうの壁際で、ニクス王が頭を振りながら立ち上がった。


 私は剣の先でツクレイジーを指して言った。


「抵抗する気ならば、かかってこい! 我々が相手になる! ただし、容赦はせぬから覚悟せよ!」


 オカンねえさんがナイフを逆手に握り直して構えた。シーシ・マコーニさんは手首を返して鞭をひねる。ミカンさんは弓を引き絞った。キエマちゃんは両手に力を込める。ミカドロスさんはカラカラカラとスプレー缶を振った。


 自分を囲んでいる女たちを見回しているツクレイジーに、ニクス王が言った。


「おまえに勝ち目は無いぞ。おまえたちがこの王都に潜入していることは、余の密偵からの情報によって既に掴んでいた。この晩餐会はおまえたちをおびき寄せるために開いたものだ。そうだな、スミヲ・オスミン」


 物陰からオスミンが現れた。さっきミカドロスさんの隣に座っていた顔の大きなおじさんだ。彼はニクス王にマントを掛けると、静かに頭を垂れた。


「御意にございもす」


 ツクレイジーは鼻で笑う。


「小説家風情に何が分かるのだ」


 ニクス王は笑って返す。


「この者は只の小説家ではない。この国の武器の材料となっている超合金オスミオンを開発した科学者であり、この国の優秀な軍事参謀だ。貴様を捕獲するためのこの作戦も、全てこの者の立案である」


 オスミンは誇らしげに胸を張った。


 私たちは一瞬、互いに視線を合わせた。


 オスミンが我々の方を向いて言う。


「おはんたちには、まだ話しちょらんかったどん、そういうこっじゃ。そんワロをうっさくれ」


 何言ってるか分からない。


「ふふふふ……ふふふふ……はははは……わあーはははは……」


 ツクレイジーが大声で笑い始めた。


 私たちは、今度は互いに顔を見合わせた。


 ニクス王が厳しい顔で言う。


「何がおかしい」


 ツクレイジーは肩を上下に揺らしながら言った。


「ふふふふ……。だってそうではないか。天下のニクス王ともあろう者が、女どもをかき集めて、その者たちに身を守ってもらっているとは。まして、この私を捕まえるだと? ふざけるのもいい加減にしてもらいたい」


 ニクス王は黙ってツクレイジーを睨んでいた。


 ツクレイジーは続けた。


「まだ分からないか。身に危険が迫っているのは貴様らの方なのだ。なぜなら、この私を怒らせたのだからな!」


 ツクレイジーは怪しい光に包まれた両腕を左右に大きく広げた。





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