沈む
アイアンたらばがに
沈む
ふう、と息を吐き出すと泡がボコボコと音を立てて上へと登っていく。
最後の空気を吐き出した私は何をするでもなく上を向いた。
水面から差し込む光が筋のように水の中を照らしている。
周りを揺らめく水草は光を浴びて青々と茂り、私を隠していた。
浮かび上がらないようにゆっくりと水底に横たわる。
嫌なことがあったときは、やはりこうして水の中で頭を冷やすのが良い。
水の流れが揺り籠のように私を揺らす。
欠伸をしようとして、もう吐き出せる空気がないことを思い出した。
魚が時折横切って光を遮る。
水面の光は波に沿って形を変え続けている。
眠気に誘われて、私はゆっくりと目を閉じた。
コポコポと心地良い音が遠ざかって、深く意識が沈んでいく。
引き揚げられ、強まる光の中で目を冷ました。
「お嬢おォォォ!?」
酷く耳障りな聞き馴染みのある声。
私を抱き上げる男の顔が視界に映る。
「騒々しい……せっかく寝てたのに起こすな」
眠い目を擦りながら、そう悪態をつく。
私よりも数倍大きく屈強なその男は、青ざめて狼狽えている様子だった。
「ビビった……死んじまったのかと思った……」
着ている使用人の服が可哀想に思えるほどの筋肉だるまが、まるでしぼんでしまったかのように小さく見える。
「このぐらいで死ぬわけ無いだろ」
そう伝えると、男が不遜にも私を地面に降ろそうとした。
「何してる」
不快感を露わにしながら、私はそう言い放つ。
男はキョトンとアホ面を晒した。
「無事みたいだし降ろそうかと……」
「何いってんだお前」
馬鹿なことを言う男に呆れて、つい罵倒が口をついて出る。
「私は眠いんだ、ちゃんと着替えさせて部屋まで連れて行くのがお前の仕事だろ」
そう伝えると男は顔を真っ赤にしながら慌て始めた。
全く騒々しい。
私はもう一度眠りに沈むために男の腕の中で目を閉じた。
沈む アイアンたらばがに @gentauboa
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