ネクロマンサー

やざき わかば

ネクロマンサー

俺はゾンビを作ることが出来る施術士、ネクロマンサーである。


とはいえ、別に節操無しに作るわけではない。例えば、依頼があったり、俺の仕事に人手が足りないときに作ったりするだけだ。依頼といっても、怪しげな犯罪関係の連中などはもちろん断る。そんなもん、ゾンビに失礼だし何より風評被害に繋がるからな。


皆さんはゾンビというと、腐乱腐敗した死体があーうー言いながら生者を襲う、というイメージが強いだろうが実際はそんなことはない。疲れがないぶん体力は無尽蔵とも言えるだろうが、筋力がアップするわけではないからバカみたいな強さはないし、俺の施術は細胞を活性化させて脳みそも復活することが出来るので、ある程度は生前の状態に持っていけるのだ。


また、生きている者をそんな節操無しに襲うこともない。食料は普通に人間が食べているもので補える。要は栄養が足りていれば良いのだ。人間の脳みそが好物?バカバカしい。


まだ施術されたばかりの若いゾンビが、指示されてちょっと考える様などは少し可愛く思えるレベルではある。現にゾンビを引き取って、自分の子供のように愛してくれる稀有な富豪なども存在する。


さて、今日もまたご遺体が運ばれてきた。


年の頃は14~15といったところか。なかなか美形の男子である。

生前は活発で優しく、正義感に溢れ頭も良かったらしい。

これは腕によりをかけて、ゾンビ化せねばなるまい。


ご依頼主はご両親であるから、余計にだ。


二日ほど経って、彼は立派なゾンビになった。俺にも笑いかけてくれるほどだ。よっぽど、良い人間だったのだろう。ご両親に無事に引き渡せた。


しかし、それから一週間ほどして、そのご両親が「引き取ってくれ」と彼を連れてきた。曰く、「生前と違う」からだそうだ。当たり前だ。彼は一度死んでいるのである。そのことは再三に渡って説明していた。霊魂を人形に移すわけではなく、あくまでも死体をゾンビ化させるだけなのだ、と。


言わば、別の魂が宿るようなものなのだ。もちろんこれは言葉の比喩だが、脳みそが多少再現される以上、生前の性格はある程度引き継がれる。だが全てが同じ、にはさすがに出来ないのだ。


ゾンビは産まれたての赤ん坊のようなもので、少しの記憶はあるものの、一から育て直さなければならない。


それを嫌がる依頼人は、実はかなり多い。ペットのように軽く考えているのである。

人間一人を生き返らせる大変さを、彼らは一切考えてないのだ。


代金は返せないことと、月にいくらかの生活費を振り込ませることを承諾させ、彼は俺が引き取った。まぁ、どうせ数ヶ月で生活費も送られなくなるだろう。こんなことは珍しいことではない。


俺の家には、そんな可哀想なゾンビたちが何人もいる。


今回引き取ったゾンビにダニーと名前を付けた。先住のゾンビたちともうまくやっていけているようで、とりあえずは一安心だ。昼間はゾンビたちに教育を施しているが、それにもついていけている。頭は良いようだ。


他のゾンビの子供達にも懐かれているようで、よいお兄さん役となっているし、年上のゾンビからは可愛がられているようで安心だ。むしろ引き取って良かった。俺はダニ―に、他の子たちよりも高度な教育、つまりネクロマンシーの施術も教え込んだ。


それから30年…。


俺のところに暮らしていたゾンビは、みな養子として引き取られていった。だがダニ―は良い引き取り手がいたにも関わらず、俺についてきてくれた。もっと教えてほしい。ネクロマンサーになりたいと常々言っていた。


俺も嬉しくて、ダニーだけは手元において、勉強を続けた。

ダニーはもはやどこに出しても恥ずかしくないネクロマンサーになった。


さて、次は俺だ。


俺はもう、腕にヒビが入り、脳みそも固まってきている。

いわゆるゾンビの寿命ってヤツだ。


さすがに300年は生きすぎた。普段は200年ほどが寿命なのだが。


俺もダニーと同じ、もともとゾンビなのだ。


前のご主人から、同じようにネクロマンシーを教えられ、それを生業とするように教わった。だが、もう寿命のようだ。俺たちゾンビは永遠の命、アンデッドではない。


人間と同じ、やはりいつか死ぬのだ。いや、「死ぬ」ではない。「消滅」するのだ。


引き取られた他の子たちをダニーが呼び寄せてくれた。

俺の最後のときをみんなと過ごしてほしいからだそうだ。


優しい子に育った。これからはお前が前のご主人、先代と俺のあとを継いで、立派なネクロマンサーになってほしい。みんなも、自分がゾンビだなんて思うな。みんな可愛い俺の子供たちだ。


ダニーは泣きながら俺の手をとってくれた。


その姿を見て安心した俺は、粉となって長い一生を終えたのだ。


これを読んでいる皆さんも、ゾンビは恐ろしいものだと思わず、ぜひ仲良くしてほしい。彼らは寿命が長いという以外は、我々人間と何も変わらない、儚い存在であるのだから。

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