ひらけ、ゴマ

▽▽▽▽

 トランクケースの継ぎ目を指先でなぞる。

 指から伝わる感触が滑らかな平坦からぼこぼこと変形したものへと変わっていく。錠そのものではなく、錠の周りを創り変える。

 集中して、指先に通った神経を意識して――。

 繰り抜かれた錠が地面に落ちた。小さい金属音が鼓膜を揺らす。

 ふう。

「開きましたぁ!」

 廊下の奥でバタバタと音がした。帰ってくるなり靴も脱がすに玄関に倒れ込むもんだからそのまま寝たかもと思ったが起きていたらしい。

 バタン、と勢いよく扉が開く。見れば閃架がキラキラと青藍色の瞳を輝かせていた。

 まったく、鍵開けしている間にとっととシャワー浴びて来いって言っても生返事しかしなかったくせに。現金なもんだ。

 期待と驚きで見開いた目に向かって口角を吊り上げた。

 この目のせいだ。藍方石みたいな瞳をキラッキラさせて見てくるもんだから思わず応えたくなってしまう。

 指先をちょいちょいと動かして手招きした。

 いそいそと寄ってきて、ちまっこく座り込む閃架にトランクケースを向ける。焦らす為に大仰に息を吐いてから顔を上げた。

 ニッ、と強気な笑みを見せる。閃架がノリ良くゴクリと喉を鳴らす。

「ご開帳~」

 ぱっくりと、ゲームの宝箱型モンスターみたいに。トランクケースが大口を開いた。

「開いたぜ。ボス」

「愛してる」

「ンハッ!クックッハハッ」

 真顔で告げられたシンプルでドストレートな好意に吹き出した。俯き肩を振るわせながらピースサイン。いやぁ無事に出来てよかったぜ。

 はしゃいだ歓声を上げてトランクケースの中を掻きまわすのを「何か良いもんあっりました?」と頬杖を突いて眺める。人様からぶんどったカバンを無断で開けて物色する、なんて行っているのは“悪いこと”なのに、閃架は実に軽快だ。

「程々にね。それなりに無茶した甲斐があったってもんだよ」

「無茶したのは主に俺ですけどね。閃架さんシャワー浴びないんです?」

「先入ってて。場所分かるでしょ」

「まぁ分かりますけど。面倒な事先に済ました方が良くないですか?」

 返って来たのは生返事でトランクケースの中身から一切顔が上がらない。こりゃあテコでも動かなそうだ。トランクケースを開ける前に浴室に放り込んで水ぶっかければ流石に入る気になっただろうか。いや、事案だからしないけども。

「……じゃあ俺先に入るから、出たら入ってくださいね」

「わかった!」

「……」

 本当だろうな。

 ちらりともこっちを見ないまま元気よく挙げられた手に胡乱な視線を向ける。いや、本当に返事だけは良いんだよな。

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