第11話 只者ではない


 彼――ジョゼフィーヌの祖父――の話から〈錬金術アルケミー〉には二種類あることが分かった。


 ひとつは素材を調合、合成、強化を行う『錬成術』。

 一般的な錬金術師アルケミストが使用する術は、これに該当する。


 そして、もうひとつは特殊な条件を満たすことで、まったく新たなモノを創造する『創世術』だ。


 私は『魔力を使うのか、神力を使うのかで差が生まれる』と考えた。

 錬金術師アルケミストが古き神々を信仰するのも、神力を借りるためだろう。


 神力自体は私がいるので問題ないが、神力にえられる道具がないそうだ。

 まずは〈錬金術アルケミー〉で必要とされる道具を錬成する必要があった。


 ゲームなどでもお馴染みの錬金窯れんきんがま――魔力制御炉――の出番である。

 しかし、この村にある物は如何いかんせん古い。


 私たちは錬金窯を探すため、一度村を出るとにした。

 まずは〈世界樹ユグドラシル〉の記憶を探り、可能性のある場所を探す。


 移動は『烈風アウル』がいるので簡単だ。

 想定通り、問題トラブルは発生してしまったが密林ジャガーという仲間も加わる。


 しかし、私たちが村へ戻った時にはすでに手遅れで、すべては焼かれた後だった。

 この村の存在を知っていた貴族連中が村を焼いたのだ。


 白い灰におおわれ、死を待つだけの世界。

 そんな世界で唯一、美しい花が咲き誇る庭園がある村。


 『人類最後の楽園』ともいえる場所だ。村の中では血筋や階級に関係なく、一緒になって、土いじりをしていた村の住人たち。


 一方で、貴族連中は互いに村の権利を主張し合い、争いを続けていた。

 そして、手に入らないと分かった連中は、自らの手で火を放ったのだ。


 こうして、人類最後の希望は人間自らの手によって閉ざされた。

 私は〈錬金術アルケミー〉の手掛かりを失うことになる。


 しかし、希望は残っていた。

 私にとっての幸運は密林ジャガーを仲間にしていたことである。


 彼が地下の隠し部屋に気付いてくれた。

 それにより、かろうじて息のあったジョゼフィーヌの救出に成功する。


 彼女の祖父が命をけて守ったようだ。

 偏屈へんくつではあったが、孫娘のことを愛していたのだろう。


 だが、世界の救済には〈錬金術アルケミー〉を使える人間が必要である。

 私が知る限り、彼女には、その資質があった。


 ジョゼフィーヌには悪いが――『燐火ローズ』と名前を変え――私の旅に同行してもらうことにする。


 人間たちに裏切らた少年の手によって、人類の希望である少女が助け出されるという皮肉。


 この世界に残された希望の糸は細く、奇跡をみあげるには人々のつながりが必要なようだ。



 ◆◇◆◇◆



 女神だからといって、私一人では出来ることが限られている。

 結局は地上に住む人々の力が必要なのだ。


 ニンクルラに妹のことを聞いても、これ以上、有益な情報は出て来ないだろう。

 なぜ捕まっていた彼女が――森を一人で彷徨さまよっていたのか?――という話になる。


「はい、あれは異国の方でしょうか? 助けて頂きました」


 そう答える。王都を見て回っただけでも、様々な人種を見掛けた。

 えて異国ということは余程、奇妙な出で立ちをしていたのかもしれない。


(例えば、私たちのような……)


 もしかすると――異国の人間というのは烈風アウルのことかも?――と想像してしまう。

 けれど、助けたのが彼だとした場合『少女を森へ放置する』とは考えにくい。


 私は燐火ローズを見た。視線に気付くと、彼女は首を横に振る。

 どうやら、心当たりはないようだ。


(つまり、私たち以外に裏で動いている人間がいるということ?)


「その人物に、特徴はありましたか?」


 と私は問う。そろそろ、女神っぽい話し方もきてきた。

 普通の話し方に戻そうかな?――と考える。


 もしニンクルラを助けたのが烈風アウルなら、翠髪すいはつに銀の瞳、長身ちょうしん痩躯そうく美丈夫びじょうふだ。

 言葉遣いは丁寧ていねいで、物腰は柔らかい。しかし――


「黒髪で長身の男性、肌はわたくしと同じで白く、目が細いのが特徴でしょうか?」


 動きに一切の無駄がない感じです――と答える。

 どうやら別人らしい。


 私が次の質問をしようとするよりも早く、襟首えりくびつかまれ、後ろに引っ張られる。

 密林ジャガーだ。私をかばうように前へと出る。


「その続きについてはワタシが回答しましょう」


 と男性の声が響く。気付くと部屋の入口に立っていた

 先程までさわがしかった店内の喧騒けんそうもいつの間にかんでいる。


 客層を見る限り、ここは商人などが密談などで使う場所だ。

 人を部屋へ通すにも、まずは店員がうかがいを立てるだろう。


 警備の兵士もいたハズだ。


「殺してはいませんよ……」


 その男は言う。烈風アウルと同じく長身ちょうしん痩躯そうくだが、色白で目が細く、まるで蛇を彷彿ほうふつさせる容姿だ。


 東洋の衣装を連想させる黒尽くろづくめの出で立ちは、拳法家なのだろうか?

 私は素人だが、只者ではないことだけは分かる。


 それに男の言葉は『まったく信用できない』と私の直感がささやいていた。男の台詞が終わるか、終わらないか、というタイミングで密林ジャガー短刀ナイフ投擲とうてきする。


 同時に能力を使用して、ニンクルラのいる床から木をやし、彼女を男から遠ざける。ニンクルラは――きゃっ!――と悲鳴を上げたが、今は許して欲しい。


「おっと、危ないですね」


 と男は言うが、その表情からは余裕が見て取れる。

 密林ジャガーの投げた短刀ナイフは二本とも空中で静止していた。


(水なのかな?)


 男の周囲を透明ななにかがおおっている。

 魔法とは違う力だ。


 どうやら、密林ジャガー燐火ローズと同じく、魂を分け与えられた使徒らしい。

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