第二章 思わぬ密告者?

第8話 それ狡くない?


 この世界が崩壊してしまう理由が〈錬金術アルケミー〉にある。

 そう思った私は〈錬金術アルケミー〉発祥の地へと向かうことにした。


 最初の冒険である。

 本当は人に会うのが怖かったのだけれど、烈風アウルと店長が一緒だったから頑張れた。


 もうすぐ滅びをむかえようとしている地上では、空から雪のように灰が降り続けている。


 浴びると人体に害をもたらす『死の灰』というたぐいのモノではない。

 ただ延々と白い灰が降り積もるのだ。


 晴れることのない灰色の空。地上をおおう真っ白な灰。

 季節さえも正しく循環じゅんかんしない状況だ。


 原因は『失われた月』にあるのだろう。

 それは、この世界の季節が安定しない理由とも、密接に関係していた。


 恐らく――この灰は月の残骸ざんがいではないか?――と私は考える。

 地上の出来事でなければ〈世界樹ユグドラシル〉には記録されない。


 私が関与できない事象なのだ。

 月の位置によって『満潮、干潮が発生する』というのを私は知っていた。


 その月がるのと無いのでは、自転速度も大きく異なるだろう。

 月が失われた事により、この星の地軸にも影響が出ていると考えられる。


 空がくもっているのは、粉々に砕かれた月の欠片かけらが大気中を舞っているからではないだろうか?


 それが雪のような形で、地上へとり注いでいるのだろう。

 石や砂ではなく、なんらかの形で結晶化されているのは肉眼でも確認できる。


 自然界の現象ではなく『人為的な理由があるのだ』と推測した。

 『錬金術師アルケミスト』に会い、調べてもらう価値は十分にあるだろう。


 この時代『錬金術師アルケミスト』の数は少ない。

 隠れ里のようにひっそりと、その集落はあった。


 〈世界樹ユグドラシル〉の記憶を読めば、場所を探すのは造作ぞうさもない。

 私はそこで、初めて地上で暮らす人間と出会った。


 ごく平凡へいぼんな少女。彼女の名前は――



 ◆◇◆◇◆



燐火ローズっ!」


 私は彼女の姿を確認すると、声を上げて飛びついた。


女神ラムダ様⁉」


 と少女。戸惑い、おどろきつつも、両手を広げて私を抱き締めてくれる。

 私たちは日が暮れる前に、約束していた店へと移動していた。


 もうじき、お腹を空かせた連中や、仕事終わりに一杯ひっかけようと男衆が大勢押し掛けるだろう。


「大丈夫だった?」


 私の問いに、


「ええ、こういう仕事の方がアタシに向いているみたいです♪」


 と法衣ローブ姿でニコリと微笑ほほえむ。

 その姿はどこからどう見ても聖職者シスターである。


 『錬金術師アルケミスト』を迫害してきた『聖王教』だが、抵抗はないようだ。

 この時代はまだ規模が小さく、異端審問と称した略奪行為も行われてはいない。


 頭のいい彼女のことだから、その辺は理解しているのだろう。むしろ、その土地で信仰されている神々と『聖王教』における経典を融合させている段階だ。


 おかしくなって行くのは『回復薬ポーション』や『聖水』を作る技術を独占しようと動き出してからとなる。


 『聖王教』は未来において、私利私欲のために〈錬金術アルケミー〉を利用する立場にあった。


 女の子同士で抱き合って再会を喜び、クルクルと回る私たちの姿を密林ジャガーあきれた様子で見ている。


 ニンクルラの方は、どういう状況なのか分からず戸惑っているのだろう。


「キュキュっ♪」


 と短い鳴き声を上げ、白い毛玉が私の肩に飛び乗った。

 転生時に私が要求したモノで、エゾモモンガの店長だ。


 生前は飼ってみたいと思っていたのだが、法律上難しかったのであきらめた。

 私の経営する喫茶店の店長なので、名前が店長なのだ。


 燐火ローズの護衛に付けていたのだけれど、久し振りの再会が嬉しいらしく、私の肩や頭を行き来し喜んでいた。


「店長も久し振りね☆」


 と私が挨拶あいさつすると――キュキュっ!――身体をり寄せてくる。

 積もる話もあるのだけれど、


「まずは席に着いたらどうだ?」


 と密林ジャガー。ニンクルラのことも燐火ローズたちに紹介しなければならない。


「うん、そうね♪」


 私は一度、燐火ローズから離れると周囲を見渡す。

 烈風アウルの姿が見当たらない。


「それが……」


 と燐火ローズ。申し訳なさそうに、


烈風アウルさんでしたら……」


 用事が出来たそうで、遅れて来るそうです――と教えてくれた。

 しゅんとする私に、


「キュキュ~!」


 と鳴いて、頭をポムポムしてくれる店長。

 元気出せよ!――ということだろうか?


「アイツなら心配いらないだろう」


 と密林ジャガー。これはアレだろうか?

 男同士の分かっているぜ的なヤツだ。


密林ジャガーくん、女神ラムダ様のことは頼みましたよ』


『任せておけ烈風アウル、心配するな』


 と会話をしなくても、何故なぜかそういう事になっているアレだ!


(ちょっと、それずるくない?)


 私が指をくわえて、首をかしげると密林ジャガーは――なぜ、そんな顔をする?――といった表情でにらみ返してくる、


「そうですよ、それより、個室を準備してあります♪」


 女神ラムダ様のために美味しい料理も用意してあります――と燐火ローズ


(気の利くええやん♪)


「デザートもある?」


(本当はお酒がいいのだけど……)


 今は身体が子供なので諦めている。私の問いに、


勿論もちろんありますよ♪」


 笑顔で答える燐火ローズ。部屋へと案内してくれた。


「知ってます? こちらの方たちはカタツムリも食べるみたいですよ」

「えっ、それ要らな~い」

「分かりました☆ それから、デザートは砂糖を多く使っているみたいです」


 肩の辺りで切りそろえられた栗毛色の髪に深緑の瞳を輝かせながら、燐火ローズは楽しそうに話し掛けてくれる。


 栄養が足りなかったのか、初めて会った時は同年代の女性と比べると発育が遅いようだったが、今は大人っぽく成長した。


 これは周りの男どもが放っては置かないだろう。


なにか対策が必要かもしれない……)


 などと私は別のことを考えながら話を聞いていた。

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