第5話 面白くなってきた


 霊鳥シムルグが気に入り、羽を休めた場所。

 死を悟った彼は、その場所が好きだったことを理解したらしい。


 彼はその場所〈世界樹ユグドラシル〉へと向かっている最中だった。

 そこで死に――そして、生まれ変わるのだという。


 まるで不死鳥のようである。元の世界には戻れず、行く当てのない私は二つ返事で彼の旅へ同行することにした。


 それは彼の願いを聞き入れることでもある。

 霊鳥シムルグのお気に入りとなった〈世界樹ユグドラシル〉が存在する世界。


 そこはこれまでに5度の崩壊を迎えたそうだ。〈世界樹ユグドラシル〉の記憶を蓄積する能力により、世界は再生し、6度目の崩壊を迎えようとしている。


 しかし、今回は上手くは行かないだろう――と彼は考えているようだ。

 〈世界樹ユグドラシル〉といえども限界がある。


 次はないという結論に彼はいたった。

 だからこそ、私に――その世界を――救って欲しかったようだ。


 〈天命の剣〉によって砕かれた私の魂には〈天命のしるし〉が刻まれている。

 その魂を輝かせることが出来るのなら、世界を救済することも可能だという。


 人の持つ願いや強い想い。

 それが、それこそが、世界の運命を滅びから救えるのだと彼は信じているようだ。



 ◆◇◆◇◆



 手筈てはずでは、先に『烈風アウル』と『燐火ローズ』が街に入ってくれている。

 王都の生活に溶け込み、情報を集めてくれているハズだ。


 もう一人、『月山ウルサス』もいるのだが、彼の巨体は、この街では目立ってしまう。

 残念ながら、後で合流するそうだ。


(私が美味おいしい物を調べて、教えてあげないと!)


 海が近いので、まずは旬の魚介類を調べなくては!――と使命に燃えている中、


主君マスター大人おとなしくな……」


 密林ジャガーが私にお願いをする。


勿論もちろんよ☆ 任せて!)


 と私はウインクをした。

 今は旅の商人。馬車で荷物を運んでいる途中である。


 見た目が子供の私は、ちょこんと御者席で大人しくするだけだ。

 密林ジャガーは街の門番へ手形を見せ、簡単な受け答えをする。


 兄妹で旅をしている。両親は野盗におそわれ、殺されてしまった。

 その時のショックが原因で妹は口が聞けなくなった。


 今は伯父おじの手伝いで、商品を運んでいる――

 などと、いつもの彼からは想像できないくらい、饒舌じょうぜつに語る。


 まあ、その説明なら、私の外套フードについて怪しんだりはしないだろう。

 案の定――それは可哀想に、頑張れよ――と応援される。


 馬車の荷を簡単に確認した後、交通税を払い、通してもらった。

 難癖なんくせをつけられた場合は荷物を渡せばいいと思い、お酒を準備していたが――


(必要なかったみたいね……)


 無事に通れて良かったな――といった表情で密林ジャガーは私を見る。

 内心では『絶対になにらかす』と思っていたらしい。


 失礼な息子である。門からは、だいぶ遠ざかったので、


「もう、出て来てもいいわよ」


 と私が告げると――ぷはっ!――馬車にいていた緩衝材代わりのわらから一人の少女が顔を出す。この街に来る途中、森で助けたのだ。


 取りえず、面白そうだったので拾ってみました。


「箱じゃなくて、わらの方に隠れているとは思わなかったようね☆」


 と勝ち誇る私。それに対して、


「こっちはバレないか冷や冷やした」


 密林ジャガーは肩をすくめる。


「あ、ありがとうございます」


 と少女はお礼を言った。まあ、少女といっても、見た目は私よりも年上だ。

 銀色の髪に青の瞳。色白な肌で着ている物も、この時代ではいい代物だろう。


 国同士の交流が盛んである『ステラニア王国』には様々な人種がいる。

 褐色の肌の人種が多いため、彼女のような存在は珍しい。


 言葉遣いや服装からも、ワケありのお嬢様であることがうかがえた。

 森の中を野盗から逃げ回っていたので、密林ジャガーに――えいやーっ!――とやっつけてもらったのだ。


 野盗を捕まえることが出来れば良かったのだが、相手は引き際を心得ていたようで、あっさりと逃げられてしまう。


 密林ジャガーの話だと、一人だけ別格の手合いが混じっていたらしい。

 彼としては私の護衛の方が優先事項なので、深追いはしなかったようだ。


「手慣れている。アレは野盗に見せ掛けた……」


 そこまで言い掛けて、密林ジャガーは口をつぐむ。

 恐らく、私が興味のある単語を口に出しそうになったのだろう。


 まあ、女の子一人、捕まえられない連中が脅威になるとは思えない。

 彼女も私たちのことを警戒しているようだ。


 話してもらうためにも、まずは彼女から信頼を得る必要がある。

 王都へ連れて行って頂ければ、お礼をします――ということなので『連れてきてみた』というのが今の状況だ。


 こちらも正体をいつわっているため、深入りしていいのか判断が付かない。

 まずは『烈風アウル』と『燐火ローズ』に合流するのが先だ。


 恐らくは、この国の裏で事件が起きているのだろう。


「面白くなってきたわね♪」


 ワクワクした表情の私を見て、再び密林ジャガーは溜息をくのだった。

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