第4話 人気者は辛いよ


 私を救ってくれた――正確には、消えく魂をひろった――青年。

 名前がないと言うので、私は『霊鳥シムルグ』と名付けることにした。


 彼は口元を押さえ、肩を小刻みに震わせる。それが嬉しかったからなのか、あきれていたからなのかは、今となっては分からない。


 名付けの理由としては、


「自分は渡り鳥のようなモノです」


 と言っていたことに由来する。

 『異世界』から『異世界』へと移動する能力を持っているらしい。


 ただ、それは『どこの世界にも属さない』という意味でもあった。

 そんな霊鳥シムルグが私を拾った理由――


 彼は自分の死期が近いということを悟っていたようだ。


「最後に生きたあかしというモノを残したくなりました……」


 と語る。どうやら、様々な世界で『人の営み』を知り、興味がいたらしい。

 長かった旅の終わりが近づき、最後にひとつの世界を救うことにしたようだ。


 彼がまり木として立ち寄っていた〈世界樹ユグドラシル〉。

 それを『どうか、助けてください』と私に託した。



 ◆◇◆◇◆



 私たちが馬車で目指していたのは――王都『ラフム』。

 この時代では、まだ『石の都』といった風体だ。


 始まりは沿岸部の岩場に穴を掘って暮らしていたらしく、都市の一部にその名残が見える。


 石を切り出して、家を建てるようになった分、技術レベルが向上したようだ。

 ただ、懸念するのは剥き出しの岩盤だろうか?


(この縞模様って、火山灰と溶岩が積み重なって出来た地層じゃ……)


 岩盤の柔らかい場所を掘って、洞窟としたのだろう。

 〈世界樹ユグドラシル〉を使って調べた際は〈錬金術アルケミー〉の歴史を中心に行っていた。


 自然災害については詳しく調査していない。

 思い返せば、地震の記録があった気もする。


 近くに火山がある――と考えた方が良さそうだ。

 〈錬金術アルケミー〉の衰退には、あまり関係がないと思うけど――


(一応、気にめておこうかな……)


 女神の堪というヤツだろうか?

 なんだか良くないことが起こりそうな気がする。


 この国の名前は『ステラニア王国』といい、北と南にそれぞれ海を持っていた。

 今は北の沿岸部に王都を配置している。


 後に王都は別の場所に遷移することになるのだが『世界最大の港湾都市になる』と〈世界樹ユグドラシル〉の記憶にはあった。ただ、それはずっと先の話である。


 国とはいっても、戦争が起こる度に国境が描き変わる時代だ。

 多くの血が流れるのだろうが、人々はそれでも明日を信じて歩み続ける。


 戦わなければ、生き残ることも難しい時代のようで、富を持てば侵略を受けてしまう。効率が悪いとしか思えないが、落ち着くまでは時間が掛かるようだ。


 結局、人の世の平和とは、流した血の上に成り立っているモノらしい。


(旅をすると、色々と考えさせられてしまうわね……)


 この国の特徴としては、海が二つある所為せいで、北と南でガラリと気候が変わることだ。緯度を考えると温暖な印象イメージだったのだが、沿岸地域を除くと冬は寒冷らしい。


(でも、実際に来てみないと分からないことがあるのも、旅の醍醐味だいごみよね♪)


 王都は北の沿岸地方に属しているため、温暖湿潤気候のようだ。

 周辺が深い緑におおわれていることから、年間を通して降水量が多いのだろう。


(こういった土地柄なら、地母神信仰が根付いているのかも……)


 『天の父神』をあがめる上天神信仰に対して、『大地の母神』をあがめる信仰形態らしいが、単純に豊穣ほうじょうをもたらす女神は多産、肥沃とつなげやすいのだろう。


 一方で砂漠などの過酷な環境では、一神教が信仰される。


ちなみに、私のいた日本はSNS教かな?)


 インフルエンサーが『面白い』と推薦すいせんしたモノしか、安心して楽しめない人々が多い。まるでネットに書いてあることだけが、真実だと考えているかのようだ。


 少数の意見はつぶされ、まるで価値がないかのようにあつかわれる。

 自分が好きかどうかは関係ない。


 トレンドになっているからこそ『楽しめる』という思考のようだ。

 例えば、アニメがいい例だろう。


 話題に取り残されないようにと、常に他人の評価を気にしてているらしい。

 自分のるアニメくらい、自分で決めたいモノである。


 表現の自由などとうたってはいても、規制はあるし、敵視もされやすい。

 自由は確かに存在するが、行動には責任が伴うということだ。


 なにが言いたいのか? というと私は女神で、つまりは人気コンテンツである。

 そんな私がいきなり――天から女神降臨☆――というワケにも行かない。


 王都はたちまち『ハロウィンの渋谷スクランブル交差点』のようになってしまうだろう。


 女神が降臨した場所として『聖地』に認定され、のちの歴史に多大な影響を残す可能背が大きい。


 なので仕方なく『馬車を使用している』というワケだ。


(いやぁ~、人気者は辛いわね♪)

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