第一章 聞いてた話と違う?

第2話 無責任な神様


 私には双子の姉がいる。

 可愛らしい容姿だったため、幼い頃は皆からチヤホヤされていた。


 双子というのもめずらしかったのだろう。

 そのことが彼女たちを甘やかす理由に拍車を掛けた。


 一方で、私は地味で平凡な見た目である。

 姉たちが、そんな私を見下すのに時間は掛からなかった。


 それでも母が生きていた頃は『仲のいい姉妹だった』と思う。

 少なくとも、私は死ぬことを考えたりはしなかったハズだ――



 ◆◇◆◇◆



主君マスター、起きてくれ……」


 とは『密林ジャガー』の声だ。

 彼は不愛想ぶあいそうで目付きは悪いが、根は優しいヤツである。


 年はまだ十代で、ここが日本であったのなら高校生というのが妥当だろう。

 武芸の心得こころえもあり、私の護衛も兼ねている。


 ふぁーっ!――と私は欠伸あくびと一緒に手足を伸ばす。

 また前世の夢を見ていたようだ。


 昨夜は面倒事トラブルに遭遇したので、それも理由だろう。

 その原因の彼女は、馬車の荷台で大人しくしている。


(まあ、面倒事トラブルに巻き込まれるのは、いつもの事だけどね……)


 転生して結構な時間が経過しているハズだが、いまだに前世の夢を見るとは不思議な感覚である。いや、としを取ると『昔のことは良く覚えている』とも聞く。


 さっさと消し去ってしまいたい記憶ではあるのだが、今の自分を形作かたちづくっている。

 きっと、忘れることはないのだろう。


 また、金髪碧眼の美少女に生まれ変わったのはいいのだが、成長速度がいちじるしく遅い気がする。少女の姿のまま、脳だけ老化する可能性もあるかもしれない。


 物忘れが激しくなる前に、食生活をもう一度見直した方が良さそうだ。

 異世界の食事はきっと、バランスが悪いのだろう。


 よくある異世界『追放モノ』――有能な主人公が追放される物語――は異世界の食生活に原因があるのではないかと推測できる。


 主人公の有能さに気付かないで追放した挙句あげく、追放した側は破滅してしまう。

 周りの人間は極端に頭が悪いのだ。


 物語の都合上『登場人物をバカにしなければいけない』という作者の考えは理解できる。だが、実際に異世界へ転生した今となっては、それだと理屈が通らない。


 科学的な根拠をげるのなら――食生活がかたよっているため、十分な栄養が取れず、脳に障害が出ているに違いない――と推測できる。


 勿論もちろん、その展開をとしている読者もいれば、単に作者の小説を書く腕が未熟な場合もあるのは分かっている。


 ただ、それは神の視点であって、異世界で生きる私たちには関係ない話だ。主人公を有能に見せるために、登場人物全員をバカにしてしまい物語を破綻させる。


 そうではなく『異世界の食生活に原因があった』と考えればに落ちるだろう。


(マヨネーズの無い世界だしね♡)


 ふーっ!――寝起きにまたひとつ、世界の謎を解明してしまう私。

 有能すぎる自分が怖い!


(私も追放されないように気を付けなくちゃ♪)


 そのためにも、食生活の改善を図るべきだろう。

 料理のできる主人公が異世界無双するのも、それが理由に違いない。


 転生して、新たに不老の身体からだを手に入れた私だが、無敵というワケではないのだ。

 油断は禁物である。


 一応、地上では妖精エルフで通しているが、女神的な存在に近い。『烈風アウル』の前の人格である『霊鳥シムルグ』の話では、私の魂は一度、砕かれてしまっている。


 非常に不安定な状態だった。

 だからこそ、あの長い回廊『原初の海』を渡ることが出来たのだが――


 過去の記憶とはいえ、魂に刻まれた残滓ざんしでしかない。

 人間だった時の記憶はその内、消えてなくなってしまうだろう。


 そんな風に考えていたのだが、これは考え方を改める必要がありそうだ。

 ついでに言えば、ずっと少女の姿のままかもしれない。


 だってあの時、私は「美少女にして!」と頼んだのだから――


「神様って結構、無責任なのかも……」


 あごに手を当て、やや真剣に悩む私に対し、


「俺からすると主君マスターも神様なんだが……」


 と何故なぜか可哀想な者を見るような視線を向けられてしまった。

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