世界樹喫茶は今日も閑古鳥が鳴く~美少女エルフに生まれ変わってみた件~

神霊刃シン

世界樹の女神

プロローグ

第1話 もう会えない、彼との約束


「そろそろ、起きていただいてもよろしいでしょうか?」


 丁寧ていねいな男性の口調に、私は重いまぶたを開ける。

 もう朝?――ととぼけた返しをしそうになって、ありえない状況であることを悟った。


(私は死んだはずだ……)


 正確には『殺された』と言った方がいいのだろう。

 ちまたを騒がせる連続殺人鬼エリミネーターの手のよって――


おどろいてしまうのも無理はありません」


 と男性。その優しい声音に、私は何故なぜか安心する。

 初恋の男の子に似ているのかもしれない。


 遠くへ引っ越してしまった年上の幼馴染だ。

 もう少し、このままの体勢でも良かったのだが、彼はゆっくりと私を降ろしてくれた。


 どうやら、彼に抱きかかえられたまま、私は運ばれていたらしい。

 空は満天の星空。冷たい夜の世界。


 何処どこまでも続く、果てしない宇宙そらを連想する。


(まるで星の海を旅しているみたい……)


 足場はあるのだけれど、そこを地面と言っていいのかは分からない。

 鏡のように綺麗な平面で、天から降り注ぐ星の光を反射していた。


 色は瑠璃ラピスラズリのような青で『空の上を歩いている』と錯覚してしまいそうになる。

 私の足が触れた場所からは、水面みなものように波紋はもんが広がった。


 白い光の円は緩やかに遠ざかり、千切れた弧を描く。

 水面にうつる月をむと、こんな感じなのだろうか?


 それでいて、水の上ではないのだから不思議な感覚である。


(まるで情報芸術デジタルアートね……)


 周囲には漆黒の闇と数多あまたの星々の光――

 地面は存在するが、無限に広がる空間に私は立っている。


 あまりの壮大そうだいな景色に私は言葉を失った。

 風はなく、静寂が支配する世界。これが死なのだろうか?


 ただ眠りにくように、人生が終わるだけだと思っていた。


「申し訳ありません」


 と男性――私を抱えて運んでくれていた青年――が謝った。

 長くも短くもない綺麗な翠髪すいはつに整った顔立ち。


 優しそうな雰囲気は亡くなった父親を思い出す。

 死神というよりは、天使といった印象だ。


なんのことだろう?)


 青年の言葉の意図が分からず、私が首をかしげると、


「本来は輪廻りんねへ戻すべきなのでしょうが……」


 貴女あなたの魂は破損してしまいました――と告げられる。続けて、


「もう、元の世界へ戻ることは出来ません」


 と説明された。その口調は穏やかだ。

 私を刺激しないように、えて事務的に話しているのかもしれない。


 頭で理解するのに少しだけ、時間が掛かってしまう。

 恐らく『輪廻転生』――生まれ変わること――が出来なくなった。


 そんな解釈かいしゃくをするのが正解だろう。

 本来ならば「どいうこと⁉」と声を上げて、詰め寄るべき場面シーンなのかもしれない。


 ただ、私自身は『やっと解放されたのだ』という喜びの方が強かった。

 他人から見れば十分に恵まれていた人生だったのだろう。


 しかし、私には窮屈きゅうくつな日々でしかなかった。

 すべては母の死から始まり、年の離れた双子の姉たちに起因する。


 貧乏だったワケではないし、生前の両親は優しかった。

 問題があったのは姉である双子の存在だ。


「それは、いいことを聞いたわ♪」


 と笑顔で答える私。この反応には青年もあきれたようだ。

 ややいた後、彼は静かに苦笑する。


 つかみはOKという所だろうか?

 わざわざ、彷徨さまようだけだった私の魂を『こうして運んでいる』ということは――


(別の使い道があるのよね……)


「私になにをさせたいの?」


 腰の後ろに手を回し、前屈みポーズを取る。

 心が軽くなったため、自然と身体が動いてしまった。


 若くはない私がやっても可愛くはないだろうが、年齢はもう関係ないハズだ。


(死後の世界だものね……)


 青年こと『霊鳥シムルグ』に私は笑顔で問い掛ける。

 この時から、私と彼――そして仲間たちとの長い救済の旅が始まったのだ。


 世界は過去に5回滅んでいる。

 6度目の世界に、私は生まれ変わった。

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