第12話 幽霊少女の生前と未練

5人(?)は11階層に着いた。


「なんか上から日が差してて暑いな…。しかもここには海があるのか」

「お兄ちゃん、ここで一回息抜きにしない?」

「いや、いいよ。この前も9階層で余分な時間使っちゃったし…」

「でも、ステラの素性を知るにはお互い打ち解ける為の時間は必要だからさ、いいでしょ?」

「わかったよ。でも、海で何するの?」

「私はこんなこともあろうかとお城でもらってきた水着が一応あるからそれで泳ぐよ」

「アオイちゃんが泳ぐなら私も。水着とかはないし、泳ぐんならこのままでいいかな」

「そんなこと言ってないでお姉ちゃんも水着着なよ。万が一のときの為に大きいサイズのも1着持ってきたんだから」

「どんな万が一なの…。わ、分かったよ…」

「アタシは泳がないよ」

「僕は水着とか持ってないし、泳ぐのはやめとくよ。ステラは?」

「泳がないよ。だって、2人が泳いでるのをシドラがどんな変態な顔して眺めるのか見たいから♡」

「僕が泳がないのはステラに話があるからだ」

「私に話?もしかして、自覚無いから女誑しって呼ぶのやめてくれ~、みたいなことでしょ?こんな子供に遊ばれるなんで、だっさ~♡」

「違うよ。ステラの生前について聞きたいことがあるんだ」

「もしかして、生前彼氏はいたのか、とか生前好きだったものは何か、とか?もしかして、私のことも狙ってるの~?きっも~♡」

「そういう話じゃなくて、もっと大切な話だよ」

「は?どうせそんなこと言っといてなっさけな~い話なんでしょww♡」

「まあ、あとでわかるよ」



アオイとシャラが着替えるといってそれぞれどこかに行って数分が経った。

まず戻ってきたのはアオイである。ベビードールタイプのビキニだった。


「じゃーん!お兄ちゃん、私似合ってる?」

「うん。可愛いよ」

「えへへ」


そして、一足遅れてシャラが来た。シンプルなデザインのタイサイドビキニだった。


「ご、ご主人様、どうですか…?」

「うん。よく似合ってるよ」

「恥ずかしいからそんなにまじまじと見つめないでよ…」

「でもお姉ちゃんいつもとあんまり変わらない気がするけど…?」

「いつもは昔から着慣れてる布だし、ボロボロだけどローブはしてるし…。そ、それに、こういうのは初めてだから…」

「それよりお姉ちゃん、早く行こ!」

「う、うん」


2人は海へと駆け出していった。


そして暫く、シドラは2人がはしゃいでいる方を眺めていた。


「お前、あの2人に見惚れちゃったりしてる?ちょろ~い♡」

「さぁね。僕はさっきも言ったけど、ステラに話がある」

「もしかして、私に惚れちゃって2人きりの時に告白しようっていう魂胆?かっこわる~♡好きなら好きって正々堂々…」

「そうじゃない。ステラは吸血族ヴァンパイアが人間と未だに共存できていないって知った時、急に気を沈ませたから。前世に何かあったの?」

「お、お前なんかに私の話してやるもんか」

「強がらないで。…次強がったら浄化するよ」

「えぇ!?何もできないクソ雑魚のクセに…♡」

「冗談だよ冗談。と、言いたいけどガチだよ。それで、前世に何があったの?」

「じょ、浄化されるくらいなら話すけど…。ゴホン。これは…今ってオデヌ歴何年?」

「今はオデヌ歴4008だね」

「ってことは…。こ、これは今から3700年くらい前の話…」

「え!?ステラって文明崩壊コー・ラプセの前の人間なの!?」

「うん。そうなんだけど…。私はオデヌヘイムの近郊の村に生まれた。でも、私は悪魔病か何かの呪いで右の背中に悪魔の翼がある片翼の悪魔として生まれちゃって、すぐに母さんが切り落としてくれたみたいだけど何故かすぐに私は母さんと魔族の子だって噂が立って、私が物心つくまでは母さんが守ってくれた。

でも、私が7歳になる頃に母さんは逆賊扱いされて殺された。私だけ殺されなかった。私が生まれてこなければ、母さんは…なんて思うけど。私が8歳になった頃には拷問されるようになって、毎日が苦しかった。

けど、気付いたらもう1人拷問はされてないけど忌み嫌われてる子がいたの。あの子も親は殺されてたけど、私みたいに家までも無かったわけじゃなかった。あの子は唯一普通に私に話しかけてくれて…。でも、私はその時は舌が切り落とせされてたから何も話せなかった。それでもあの子は私を家に招待してくれて楽しかった。

その夜は。そんな日々が続けばいいと思ってたから、次の日の早朝に夜逃げしたけど…。」

「…けど?」

「いつもの場所に私がいなかった所為で追っ手が来て、夜逃げした日の夕方に捕まった。私は悔しかった。また拷問を受けることも、あの子を巻き込んだことも。一緒に殺されれば辛くなかったのに、私より先にあの子を殺した。八つ裂きにして、火炙りにして…。それで奴らはこう言った。“悲しいか?友達が殺されて。お前の所為だけどな。”って。なのに、私は運悪く死に損なった。溢れる感情が暴走して、悪魔病の呪いが再発したか何かで激情に任せて村の人間を全員殺して、その血肉を代償にした黒魔術で体の傷ついてた部分が再生して更に成長した挙句不老不死になって。あの夕方の夕日は綺麗だったのに、それを私は血で染めた。はやくあの子に会いたかったのに、死ねなかった。

それから800年は苦痛でしかなかった。見た目でも癖でも性格でも何でもいいからあの子に似た男の子を見つけては追い回して、結婚して、その人が死んだらまた次へ。その間も殺した人間たちと同じような醜悪な人間たちを山ほど見てきた。

一番酷かったのは、文明崩壊のとき。どこかの悪党が神器で人類の欲望を開放したとき、私はその世界がどんどん腐っていくのを五感で体感した。こんな世界なら、いっそ壊してしまえ。

そう考え始めた頃、私を世界再構築した英雄にしよう、とか言う馬鹿な堕天使が誰かしらいたのは覚えてる。ソイツの誘いを断って文明を自分で破壊した。文明崩壊の本当の原因は私。一か月も経たないうちに文明は崩壊して、生き残った人類もわずかになった。

その日の夕焼け空は、あの日の夕焼けに似てた。こんな800年追い続けた穢れた恋でも、もし届くならなんて思うと今までの私のしてきたこと全部が悔しくなった。こんなことなら、いっそ生まれてこなかった方がよかった。

そう思えたからこそ、これは自分で償って文明を再構築するべきだって行動し始めたのに、あの悪魔に殺された。

きっと、自分がしたことを反省した、禁忌だったことを自分が認めたおかげで不老不死が解けたのかな。でも、そこで私の人生が終わりなのは悲しかったよ。けど、こうしてお前に話して楽になった。お前、なんかあの子に似てるんだよね」

「え?何その偶然…」

「こ、こんな私の話を信じてくれるの?お、お前チョロすぎ…♡お前、いちいち反応があの子と似てるんだよ…。だからさ、そんなお前に召喚してもらえたからにはあの子に会わせてもらうよ」


そんなことをいいながらステラはウインクした。


「あ、お前今少し赤くなったな。…チョロすぎ、ざぁ~こ♡」

「ぼ、僕はアオイと親友以上恋人未満だってことになってるからあんまり誘うようなことは…」

「何?少し意識しちゃったの♡なっさけな~い♡」

「はぁ。そういう発言は誤解を招かない範囲で抑えてくれよ」

「や~だね~♡」


「ご主人様、大変!!アオイちゃんが72柱の1人に攫われた!!」

「…えっ!?」

「たぶん、13階層だと思う。相手は序列41のフォカロルだよ」

「ありがとう。それじゃあ、僕だけで行ってくるけどいい?」

「ご主人様だけじゃ危ないよ」

「お前がどれくらい強いのかは知らないけど、全員で行った方が…」

「でも、ここはどうか!」


僕は異世界の芸、ドゲザをしてみせた。


「い、異世界の芸なんかしなくていいから」

「頭が汚れるよ」

「いいってことね?ありがとう!じゃあ」

「あ、ちょっと…」


ドゲザをやめるとシャラが止める間もなく、僕は13階層へ行った。


続く 次回、水の公爵と…

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ヴァンパイア~世界樹の英雄譚~(旧名:ヴァンパイア・エンパイア英雄譚) クラプト(Corrupt)/松浜神ヰ/ハ @monohoshiP

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