ヴァンパイア～世界樹の英雄譚～(旧名：ヴァンパイア・エンパイア英雄譚)

第11話 幽霊少女はメスガキでした。

僕ら4人は10階層に来ていた。

「そういえば、昨日シャラが使ってたあの強化魔法って何だったの？」

「あれはごく一部の魔族しか使えない魔法なんだけど、使える時間帯に限りがあるの。まぁ、私はそもそも発動すらしていなかったのを私が72柱になる時にルシファーが覚えさせてくれたヤツなんだけどね」

「使える時間帯に限りがある？それってどういうこと？」

「うん。昼は[太陽追う覇狼の加護（ヘギモンド・スコル）]、夜は[月追う覇狼の加護（ヘギモンド・ハティ）]しか使えなくて、黄昏時と彼誰時（かわたれどき）は使えるかどうかは知らないんだけどね」

「その魔法って使える人はみんな72柱を倒せるくらい強くなれるの？」

「例えばだけど、私があの時使った技の[影技（えいぎ）　十六方奴斬騎（じゅうろっぽうやつざき）]はハティのときしか使えないし、同じ魔法でも能力とか特別な魔法に個人差が出るから全員は無理だよ」

「それって、シャラは強いってことね」

「あ、ありがとう。褒めてくれて」

「耳、真っ赤だよ」

「べ、別に褒められてめっちゃ嬉しいとかそういうわけじゃないし、ご主人様だって耳…」

「そ、それはシャラとアオイがくっついてくるから…ちょ、ちょっと恥ずかしいというか、前に比べて慣れはしたんだけど…」

この10階層は、薄暗く気味の悪い一本道の洞窟だったからか、シャラとアオイは僕の腕に抱き着いていたのだった。

「ここ、何か出たりするのかな？」

「この階層の奥の方で特殊な魔力に集まって霊がたくさん発生してるよ」

「えぇ！？ここ幽霊さん出るの？」

「アオイちゃん可愛い。幽霊にさん付けした」

「アオイは幽霊さんが苦手か？」

「ちょ、ちょっと、からかわないでよ！で、でも確かに幽霊さんとか怖いものは苦手かも」

そんなことをいいながら、アオイは更に強く僕の腕を抱きしめてきた。

「ね、ねぇアオイ、からかった僕が悪かったからそんなに強く抱き着かないでくれない？やっぱりちょっと恥ずかしいかも…」

「からかった自覚があるならしっかり償ってよ」

「…わかったよ」

「幽霊、か。私はそこまで怖いとは思わないけど、もしものことがあったらよろしくね、ご主人様」

シャラもアオイに負けられず腕に強く抱き着いた。

「ちょっとシャラ、シャラはその、せめて抱きつき方を考えてほしいんだけど…。お願いだから腕を谷間で挟もうとするのはやめてくれないかな」

「アオイちゃんに抱き着く隙をあげた罰だよ」

「…。と、ところでヴィネアは怖くないのか？」

「私は、…そこまででもないよ」

「さすがだね」

「お兄ちゃん？その”さすがだね”ってどういう意味？」

「まさか、ご主人様はヴィネアが好きなの？」

すかさず2人に圧をかけられてしまった。

「さすがだね、っていうのは、さすがユグドラシルの子供だな、っていう意味で、ヴィネアは仲間としては好きだよ」

「じゃあ、恋愛としては誰が好きなの？」

「い、一応アオイだけど…」

「一応って何一応って？女の子は好きな男の子に自分の好感に対して曖昧な態度をとられるのも地雷の原因になるんだよ？」

「わ、わかったから…」

その時、洞窟の奥の方から轟音が聞こえ、屍の武装した集団がこちらに猛スピードで走ってきていた。

「あ、あのスピードだと避けられないけどどうするの？」

「薙ぎ払うまでだよ」

「え？薙ぎ払う？」

「『心裂剣リディルよ、目前の士（つわもの）たちを薙ぎ払え。[薙ぎ払い（メイエネッド）]』!!!」

そして、屍たちは壁にその身を打ち付けられ、粉々に粉砕された。まさか、剣自体に技のマニュアルが登録されてるとは…。

「どうやら、奥にいる死霊闇魔術師（ネクロマンサー）からの客だったみたいだな。何か他に起こる前に急ごう」

「「「うん」」」

＊

そこには、青い毛を持つ半人半馬（ケンタウルス）がいた。

「お前か？さっきの屍の騎士団を送り込んできたのは」

「そうだ、我だ。まさか、あの騎士団を倒してからきたのか？」

「ああ。それはもう盛大に粉砕したよ」

「そうか。我は72柱の序列4、ガミギュンだ。貴様、相当我の黒魔術を舐めているようだが、私の真の力を見るか？」

「こっちには聖剣がある。聖剣があればどんな死霊だろうと…」

「その言葉、後悔させてやる。『[遺伝子融合（ゲネット・フション）]』、出でよキメラ!!」

ガミギュンが一言唱えると、地中からは巨大な怪物が這い出てきた。

「このキメラは知らんだろ？こいつは聖剣の攻撃が効かんからせいぜい足掻いて死ぬがいい！」

まさか聖剣の攻撃の聞かないモンスターが存在するなんて…。打開策、打開策…。

「ねえご主人様、今ってまだ昼間だよね？」

「ああ、体内時計が狂ってなければそのはずだよ」

「昼間だから何だというんだ？さあ、ショーの始まりだ!!」

すると、シャラが1歩前へ踏み出した。

「待って！もしかして、犠牲になるつもり！？」

「ご主人様。そんなつもりはないから、ちょっと待ってて。」

「『陰陽覇狼変化　煌めく光で敵を焼き切るその爪を我が手に。[太陽追う覇狼の加護（ヘギモンド・スコル）]』！」

そしてシャラはハティの時とは真逆ともいえるような橙色（オレンジ）に輝く布地のドレスと、トパーズの髪飾りをつけた。

「強化魔法を使ったごときで倒せる相手だと思って侮ってると痛い目見るぞ」

「それはどうかな。『陽技（ようぎ）　灼炎一閃』!!!」

シャラは怪物に突っ込んでいき、貫通。怪物は音もなく粉になって消えた。

「ひぃぃ…。ま、まさか、それは太陽の力が籠っているのか!?」

「まあ、そうだけど」

「ガミギュンとか言ったっけ？取り引きしよう。成功すればその命は助けよう」

「ありがとうございます！と、ところで、その要件は？」

「お前のネクロマンシーの腕を見込んで、俺たちの為に1人幽霊を召喚してくれないか？」

「依り代（よりしろ）にする体はいらないのですか？」

「ああ、霊体のままでいい。とりあえず、召喚してほしい」

「それなら、さっそく召喚を始めます。ただし、どんな幽霊が召喚されるかは我にもわからないから、どんな曲者（くせもの）が召喚されようとそれで契約成立だ」

「それでいい」

「なら、儀式を始める…」

＊約30分

「召喚は成功だ。可愛らしい少女の幽霊だ」

「さっそく会わせてくれ」

そして連れてこられたのは、13、４歳の美少女幽霊だった。

「僕はシドラ・コエクシストだ。よろしく。君は？」

「私はステラ・ヘイチェイス。よろしく。あ、お前は他にも少女3人も連れてるの？や～い、女誑（おんなたら）し～♡」

「…は？ぼ、僕は別に誑してるつもりは…」

「無自覚なら、私がお・し・え・てあげよっか♡」

「い、一体何をするつもり！？」

「あ～♡お顔真（ま）っ赤（か）っ赤（か）だよ？変なことでも考えてたのかな～？いっやらしい～♡」

「…っ！？」

「あれ～？言い返さないの～？この根性なし～♡ざぁ～こ♡かっこわる～♡」

「ぼっ、僕だって世の中を良くしたくて冒険者を始めて今ここにいるんだよ！僕は吸血族が人間と共存できる世界を創りたいんだ！今はまだ、ただの理想論でしかないけど…。って、あれ？どうしたの？」

「いや、まだ人間は差別に依存しているんだな、って思っただけ。自分も、似たような境遇だったから…」

「さ、さっきまでのテンションは？生前に何かあったみたいな顔してるけど、何があったの？」

「い、今のところはこの辺りにしてあげる！」

「えぇ…」

こうして、見事なまでのメスガキ幽霊を仲間に迎えたシドラたちだった。

続く　次回、少女（ステラ）の過去が明らかに!?