第9話 古竜の化身?

僕たち3人は5階層に来ていた。


「やっと10分の1か…」

「ここまで長かったような短かったようなだね」

「そういえば、ユグドラシルに自分から行こうとする冒険者っているのかな?」

「ユグドラシルは昔から吸血連合…だっけ?が封印されてる、っていう話だったし、何より、もしも大精霊ロキ様のお気に障るようなことがあったら…」

「そういうことね。でも、大精霊ロキの気に障ることって、何だろう?やっぱり、ユグドラシルの中を汚される、とかかな…?」


「でも、何回私が誘惑した男にえっちの寸前まで弄ばれても何も起こらなかったよ。」

「そうか。でも、できればそういう話はやめてくれないかな…」

「もしかしてご主人様ってえっちな話とか苦手?」

「苦手っていうか、16にもなってもそういう話を聞いたことも見たことも…。とりあえず、慣れてないからか免疫がなくて…」

「ご主人様、16なのに免疫無いのか…。なら、私が…」


すると、アオイの表情が一瞬で硬くなった。


「ちょっとお姉ちゃん!?お兄ちゃんを誘惑しないでって言ったじゃん!!」

「別に誘惑したわけじゃないよ。ただ、16にもなって世の男たちが知ってて当然のことを知らないから…」

「お兄ちゃんがそういう穢れたことを知らずに生きてきただけだよ!!」


「ちょっと、2人とも落ち着いて。シャラ、僕はまだそういう知識は要らないだろうから大丈夫だよ。アオイも考えすぎだよ。まだシャラが僕に何をしようとしてたか言ってなかったのに…」


「ごめんなさい、ご主人様。ご主人様は他の男性と違って心がきれいなんだね。また好機があればぜひとも」

「私はただ、お兄ちゃんには今のお兄ちゃんのままでいて欲しかっただけで…」


その時――。

何者かが投げた何個もの手榴弾グラナートがユグドラシルの壁や周辺に転がってきた。


3人とも無傷で済んだが、壁は削られ、足元には大穴が空いていた。


「くそ!無傷か。しゃぁねぇな…。」

「お前は誰だ!?なぜユグドラシルに手榴弾なんかを…?」

「俺が名乗る必要はねえ。お前らはすぐに俺が殺すからな」

「何故殺すなんてなった?僕はお前とは初対面だ。まさか、お前も72柱か?」

「俺をあんな昔話に出てくる化け物と一緒にしないでくれ。ああ、確かに俺はお前と初対面だよ。でもなぁ、吸血族ヴァンパイアがこんな神聖な場所に侵入したのを見過ごすバカはどこにもいやしねぇよ」

「吸血族が入って何が悪い?それに、ここが神聖な場所だと分かっていてこんな破壊行為を?」

「悪を滅する為なら手段は厭わないさ。何せ相手が悪魔だからなぁ。」

「吸血族は悪魔なんかじゃない。僕はできるだけ人間とは戦いたくないんだが。それでも戦うか?」

「臨むところだ。そこのサキュバスの嬢ちゃんは貰ってくぞ」


「『操風マニプリル・ヴィンド、反逆者を排除します』」

「何だ?ふぁっ!?やめろ、やめ…」


謎の詠唱が聞こえると同時に、男は幾つかの風の渦に巻き込まれ、その体が捻じ切れて死んでしまった。その急に目の当たりにした無残な光景に僕たちは茫然とするしかなかった。


「今のは…?」

「ねえご主人様!あそこ見て!」

「え?あ、あれは…誰だ?」


そこには、1人の少女がいたが、その気配は人間でも魔族でもなかった。


「あれって…?」

「ユグドラシルの[産物]。内部が一度に激しく損傷するとその犯人を抹殺する世界樹十二勇士の一体。たぶんあれは気配からして古竜の化身だね」

「シャラは詳しいのか?」

「まあね。その辺のこともルシファーに教えてもらったんだけどね…。でも、今回は何か違うよ。普通、十二勇士は役目を果たすとユグドラシルの内部に帰るはずなのに…」


その少女はこちらをじっと眺めていた。しかし、何があったのか少女はこちらに飛んできた。


「…?」

「顔、近いんだけど…」

「だれ…?」

「ぼ、僕?僕は、シドラ・コエクシストだよ。君は?」

「パパ…?」

「パ、パパではないよ」

「…パパ!」

「…え?き、君のパパはこの世界樹ユグドラシルだよ。だから、僕なんかじゃなくて…」

「パパ、パパ!」

「えぇ…。どうしよう、これ…」


「とりあえず、ユグドラシルを出るまでは一緒に行動してもいいんじゃない?」

「私も賛成です。お兄ちゃんをパパだと勘違いされたままだと困るから」


「ママ…?」

「「…え?」」

「ママ…。ママがふたり…」


「言葉が使えんようじゃ意思疎通ができんじゃろ」

「鬼人!?なぜこんな上層に鬼人が?」

「儂はただの鬼人じゃねぇぞ。儂は72柱の序列27、ロノウェじゃ。お主らの様子を見ていて居ても立っても居られなくなってしまってな」

「何が目的だ?」

「儂は単にその[産物]に言葉を授けに来ただけじゃ。ただし、一気に多くの言葉をねじ込むと脳に負担が大きい。だからじゃ、必要最低限の言葉しか覚えさせんぞ。それでもいい、負担を減らしてほしい、とどうしても思うのなら覚えさせるぞ」

「分かった」

「ならば始めるそ。『言の葉を知らぬ未熟者ニィビギナーに我が権能用いて授けよう。人たる者の知識を。[天授:言の葉ガーブ・オルド]』」


そして、少女の下には緑の魔法陣が描かれ、しばらく発光した


「どうじゃ?成功したか?おい、言葉は分かるか?」

「分かる」

「ほほう。こやつ、やはり精神年齢がまだまだ幼いようじゃのう。お主ら、古竜の化身に目をつけられたからには最後まで添い遂げてやれよ。それじゃあ儂はここらで」


そして、ノロウェは消えていった。


「君、名前は?」

「名前、って?」

「一人一人が持ってる大切なものだよ」

「アタシ、名前、持ってない…」

「だったら、名前つけてあげるよ」

「いいの!?パパありがとう!」

「だから、パパじゃないけど…。そうだな…、よし、今日から君の名前はヴィネアだ」

「ヴィネア…?ありがとうパパ!」

「うん。喜んでもらえたならよかった」



「パパ、ユグドラシルは初めて?」

「初めてだけど」

「これからよろしくね。パパは誰が何と言おうとアタシのパパなんだから」


こうして、なぜか古竜の化身に目をつけられた挙句、親認定されてしまうのであった。


続く 次回ははぷにんぐ回じゃぁ!!

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