第8話 グラシャラボラス現る

互いに愛を深めた僕とアオイは4階層に来ていた。


「3階層は何もなかったね」

「まあ、それでよかったんだけどね。そのおかげで友達以上恋人未満になれたからね」

「ちょっと、からかわないでよ」

「べ、別にからかうつもりで言ったわけじゃないんだけど…あっ、ちょっと隠れて!」

「え!?何かあったの?」

「ほら、あそこ。狼のフードを被った誰かがいるけど、放ってる魔力からして多分あれは72柱だ」

「そっか。確か、世界樹ユグドラシルの色んな階層に72柱の悪魔がいるんだっけ?」

「ああ。もしあれが72柱なら、また戦いになるし、戦闘態勢に入って」

「うん」


「そこのお兄さん方、こっちにおいで。私が気持ちよくしてあげるよ」

「甘やかす?そういうことをしてきたようには見えないよ。そのローブに飛び血がついてるぞ」

「…。これは|モンスターを倒したときの血だよ。それより、私のところにおいで」

「お前は俗に言うダンジョンビッチか?何が目的だ?とりあえず、そのフードを外してくれ。」

「嫌。このフードは外さない。何で来ないの?」

「何が目的かは知らないけど、こちらから先手を打ってもいいか?」

「話が通じないのね。なら、フードは外してあげる」


そこには、清楚な美少女の顔があった。が、その額からは可愛らしい短い一角が生え、耳は先端が吸血族ヴァンパイアのように尖っていた。そう、サキュバスだ。


「これでいい?」

「何が目的で男を誘惑している?多分、僕が初めてじゃないね」

「目的?私の目的は、ルシファー様にもっと認めてもらうことよ」

「ルシファー?お前も72柱か?」

「そう。私は72柱の序列15、グラシャラボラスよ」

「なぜ|サキュバスが本来なら魔獣であるグラシャラボラスを名乗って、しかも72柱を?」

「私がグラシャラボラスを名乗ってるのはルシファー様の冗談が由来よ。”猫ならぬ狼を被った夢魔だ”って」

「そもそもサキュバスの肌にそこまでの人間味はないはずだ」

「そう。これは私が72柱のうちの1柱になる前の話。


私は魔界のサキュバスの集落に生まれたけど、何故か他の同胞よりも人間味が強くてね。たったそれだけの理由で地上に追い出されたんだけど、それからは人間の男に襲われそうになる毎日で、そのたびに飛んでは知らない場所へ行ったの。運よく私は翼が大きくて飛行能力にも長けていた。でも、ある日一人の男に追われて、もう逃げられない、ってなった時にルシファー様が助けてくださったの。この毛皮もその時にもらったし、助けてもらったお礼に72柱を目指して、いつかルシファー様のおそばに置いてもらえるように、って。


でも、ルシファー様はいつまで経っても私に振り向いてくえなくて、私のルシファー様への嫉妬はいつからか復讐心に変わった。いつかルシファー様よりも強くなって、ルシファー様を殺すんだって。そうすれば、私だけのルシファー様になるから。だからこそ、各地で男を誘惑しては殺してまわった。それでSランクだって言われてた冒険者もたくさん殺した。だから私、強くなったはずなのに、まだルシファー様は振り向いてくれない…」


彼女は悲しそうな顔をしながら自分の過去を話していた。彼女はこうせざるを得なかったのだろうか。

すると、どこからともなくあの時の声がしてきた。


<その程度で満足するから強くならないんだ。第一、誰も俺がお前を嫁にとるとは言っていない。お前の一人相撲だ。俺に復讐したいなら、目の前の侵入者と手を組めばいいものを。まあ、せいぜい足掻いてみせろ>

「分かってるよ!いつか絶対に後悔させてやる!」


自分でも甘いのは重々承知しているつもりだった。でも少し、彼女が可哀そうだと思った。


「お前、ルシファーを憎んでるんだな」

「そうだよ。私を拾ったのはルシファー様なのに、拾った責任も果たさずに手放すなんて、ほんと酷い話だよ!」

「なら、ルシファーも言ったように僕たちと手を組まないか?」

「え?ちょっと、私は一応肩書きだけでも72柱だよ?信用するつもり?」

「いや、さっきの話を聞いた感じだと今まで難ありの人生だったみたいだし、ベレトって72柱の一人が言ってたよ。悪魔を信用することも大事だ、って」

「あいつ、そんなことまで…。いいよ、だったら手を組もう。いつか必ずルシファーを殺そう。よろしく」


「こちらこそ。僕はシドラ・コエクシスト。よろしく」

「私はアオイ・チョンチニーです。よろしくお願いします。」


「えっと、私は二人のことを何て呼べばいいのかな?」

「別に、好きな呼び方してくれればいいけど」

「だったら、ご主人とアオイちゃん、って呼んでいい?」

「え!?いいけど…。何で僕をご主人呼び?」

「だって、ルシファーに代わる私の新しい主だから」

「それ、呼びにくくない?」

「そんなことないですよ。むしろご主人はご主人が一番しっくりきます」

「そ、そっか」

「あと、私のことは何て呼ぶつもりですか?」


「私はお姉ちゃんって呼んでいいですか?」

「いいよ、アオイちゃん。」


「僕は、シャラって呼んでいいかな?」

「シャラ、ですか?」

「シャラ、っていうのは異世界のジッパン、二ホンという国の文字で沙羅って書いて、高いところに目標を置く、って意味があるんだ。僕たちは別の敵を封印しに来たけど、いずれはルシファーとも戦う日は来るだろうし、ルシファーを殺すなんて高い目標を掲げるなら、それに相応しい呼び方の方がいいでしょ?」

「さ、さすがはご主人様…」

「様まではつけなくていいよ」


そんな会話をしていると、アオイが何か怒っているかのようだった。


「お姉ちゃん、1つ言い忘れてたことがあるんだけど」

「なに?」

「会った最初みたいにお兄ちゃんを誘惑しないでね、絶対。あと、そのローブの中にどういう服着てるかも見せて!」

「いいけど…」

「ショートパンツに上半身は胸を覆う布一枚だけ…。いい?絶対にその状態でお兄ちゃんに抱き着いたりしないでね。あと、よっぽどのことがなかったらローブは脱がないでね?」

「う、うん。ねえご主人様、私ってアオイちゃんに何かした?」


露骨に恋敵として警戒してるなぁ…。


「いや、そういうわけじゃないけど、アオイと僕は友達以上恋人未満だから、かな?」

「えっ!!そういう関係なの?ああ、私もそんな経験してみたい!!」

「羨ましがられても…」


こうして、仲間にグラシャラボラスの名を冠する美少女が加わった。


続く 次回、古竜の化身に出会う!?

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