第12話 攻略対象・4 蜜の聖女
「――四人目、蜜の聖女エニア・ドーリスラエ。古王国カタルナの聖女。派手な性格だが、薬の調合に長けるらしい。王侯貴族から貧民まで、分け隔てなくその薬で救ってきたという」
「薬、ですか――。確かに、癒やしのわざは神より与えられる異能のひとつ。さぞ研鑽を積んできたのでしょうね。すばらしい心がけです」
イリスの言葉に対し、アルヴェルディスはあえて黙っていた。蜜の聖女は多分に享楽的な性格で、蜜の水薬という名で麻薬まがいの薬をばら撒いている話もある。そのせいで、厳格で道徳的だった古王国カタルナ宮廷の高位貴族は薬漬けの中毒状態という情報さえ耳にした。
蜜の聖女が毒まがいの薬遣いなのだとしたら、盲目の大聖女イリスとは相性が悪いはすだ。貴族の使う銀食器が毒に反応するとはよく知られているが、それとて目で見えなければ意味がない。
イリスを不用意に怯えさせたくない。だからこそ、この最後の聖女の選抜理由については、アルヴェルディスは本当の理由を告げないことにしていた。
「ですが、彼女には何分にも派手な噂が多すぎる。それに比して敵も多い。――敵の多さは、帝室の妃になるには致命的です。それを補うだけの長所があるならばともかく」
「確かにそうですね。帝国の宮廷は、多分に保守的ですから。なるほど、そのような理由でしたら、納得いたしました」
イリスは再びちいさくうなずいて、それから、まっすぐアルヴェルディスに顔を向けた。
「それでは、殿下。いずれの聖女から攻略してご覧に入れましょう」
アルヴェルディスはごくりと息を呑む。大聖女イリスは、いったいどのような手を使って、他国の聖女たちの目論みをくじいてみせるつもりなのだろう。それが知りたくもあり、少しだけ、怖くもある。
一瞬だけアルヴェルディスは目を伏せ、すぐに顔を上げた。イリスの目には映らないと分かっていながら、その双眸をまっすぐに見つめ返し、告げた。
「――――では、手始めに、炎の聖女を」
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